北口雅章法律事務所

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続々・週刊誌で読み解く,横綱日馬富士・暴行事件の深層(真相?)

5.貴乃花の真意・動機は何処にあるのか?

貴乃花親方が,現役横綱の一大スキャンダルを巻き起こす一方で,
協会側の調査協力の要請に対し拒否的態度を貫いている背景には,
どのような真意・動機が隠されているのか。

勿論,「憶測の域」を出るものではないが,動機自体は比較的単純なものであり,
ただ,その根底にある意識・無意識の情動は複雑に交錯するものがあるのではないか?
と推察される。

法律論的には,傷害の被害者・貴ノ岩が,加害者である横綱日馬富士の暴行による
頭部外傷という人身被害を届出たというものであるが,社会現象としては,
当該被害届は,やはり「貴乃花親方の意思決定」に基づくものであり,
その決意は,横綱日馬富士・個人に向けられたものというよりは,
相撲協会・全体に向けられているといった様相を呈していることは明らかであろう。

何故かといえば,本件は,日馬富士だけの問題に限局されるとは思えないからである。

日馬富士の所為は,ビール瓶を使用したか否かの点は,
ひとまず措(お)くとしても,法律論的には,立派な犯罪行為(傷害罪)であり,
通常人の日常感覚としては悪質ではある。
しかしながら,鍛え(きたえ)抜(ぬ)かれた力士同士の暴行であることを考慮すると,
日馬富士の暴行が,たとえビール瓶を使ったものであっても,
必ずしも重大なものとは言い難い。
現に,貴ノ岩も,翌日からの鳥取での巡業に参加していたようであり,
両当事者の真意はともかく(日馬富士による「演出」であろうが),
日馬富士と貴ノ岩間での“和解”を示唆する両者の「握手」の目撃情報も確認されている。
したがって,
「貴ノ岩が」被害届を鳥取県警に提出しなければ,「水に流せた」はずのレベルの話であり,
被害届の提出後も,「貴ノ岩が」示談に応ずれば,不起訴相当の軽微事案である。

ところが,
平幕力士とはいえ「頭部外傷」を負った「被害者」が示談に応じていないし,貴ノ岩が,貴乃花親方の意に反して,示談することは考え難いであろう。
このため,捜査段階での示談不成立がが親方の意向によるものであっても,貴ノ岩の意思に反するものでない限りは,
検察としては,日馬富士を傷害罪で立件せざるを得ないはずである。
この場合,検察が立件する以上は,凶器を使用するといった暴行態様の危険性・悪質性,
及び「頭部外傷」という被害結果の性質上,「罰金」にとどめることは困難であろう。
そうなれば,相撲協会としては,横綱「廃業」の可能性も視野におかざるを得ず,
日馬富士の師匠である伊勢ヶ浜親方(元横綱・旭富士)の監督責任と,内紛を自律的に解決できない
八角理事長(元横綱・北勝海)の権威・指導力が問われることになろう。
換言すれば,このような社会的な波及効果を見据えたうえで,貴乃花親方が,
貴ノ岩による独断専行による安易な示談を阻止し,
 刑事司法の介入を求めていることは明らかであろう。

何故,貴乃花親方は,円満な解決を拒否する態度を貫こうとするのか?

その背景に,貴乃花親方と八角理事長との確執,貴乃花親方と伊勢ヶ浜親方との確執
とがあり,来年,1月の相撲協会理事長選に向けて,形勢逆転を狙ったのではないか,
という見解もある(週刊新潮)。しかしながら,「週刊文春」サイドでは,「今回の不祥事が尾を引く
としても八角体制はゆるがないとみられており,貴乃花親方に新理事長の目があるとは
あまり思えない。むしろ,内部的には,協会を混乱させた当事者として,貴乃花の評価を
落とす方向に傾いている」という関係者の意見を掲載しているところをみると,
貴乃花も同様の認識であろう。
そうであれば,「理事長選」云々は,貴乃花の一連の行動にみる頑な(かたくな)な態度
とは無縁のものであろう。

そうなると,やはり,現在の相撲業界の「体質」に対する反発・憤激が背景にある,
要は,「醒(さ)めた感情論」が根底にあると考えざるをえないであろう。

具体的には,「モンゴル系三横綱」を中核とする「馴れ合い」体質,
「星の回し合い」,「八百長」疑惑と,モンゴル系力士の“やりたい放題”
を黙認する相撲業界の隠蔽体質に対する,不審・不信と反発である。

貴乃花の「憤激の源泉・原因」となった心情について,「週刊文春」の記事等をもとに,
推察・敷衍(ふえん)すると,次のとおりである。

⑴ そもそも根本,日本の伝統・国技のトップに「モンゴル系三横綱」が居座っている
 のが気に入らない。もちろん,モンゴル系だから気に入らないのではない。
 現に,貴乃花の「秘蔵っ子」といわれる貴ノ岩もモンゴル系だ。
 貴乃花が手塩にかけて育てた貴ノ岩は,
 今年の初場所で「初顔合わせの白鵬」を見事に破り,
 稀勢の里の初優勝をアシストし,「日本人横綱・稀勢の里」誕生に貢献した。
 貴乃花としては,白鵬の逆恨み感情や,白鵬を筆頭とする「モンゴル系三横綱」「一味」
 から,貴ノ岩を隔絶させ,防護する必要があると考えていたはずだ。

⑵ ところが,「白鵬一味」は,貴ノ岩の母校・鳥取城北高校・相撲部総監督が主催した
 会合の機会を捉えて,「親方(貴乃花)の許可なく!」貴ノ岩を「制裁の場」(二次会)
 に尾引きだし,「モンゴル系三横綱」立会のもと,「パワハラ」を開始し,かつ,
 白鵬による,いわれなき「説教」の最中にスマホをいじったことに因縁をつけて,
 凶行に及んだ(週刊新潮の取材に応じたモンゴル系関係者は「日馬富士が貴ノ岩に
 対して本名で呼びかけた際,貴ノ岩がスマホを触っていてそれに気づかなかった」と
 証言している。であれば,スマホをいじっていたからといって,必ずしも,失礼な
 態度を示す意図はなかった可能性がある。)。
  会合主催者(総監督)の長男(石浦関)が白鵬の内弟子であることから,当該会合に
 白鵬が参加することは必ずしも不自然なことではない。
 しかしながら,鳥取城北高校・関係者の集いに,
 横綱日馬富士と横綱鶴竜までが参加するいわれはなく,白鵬の意図が見え隠れする。
 二次会の席で,貴ノ岩への「説教」を仕掛けたのは,「白鵬」だったようであるが
 (文春),そもそも,「酒が入った」人間から「説教」を受けるいわれなどないし,
 「他の部屋の力士」に対し「説教」をたれるとは,越権行為ではないか。
 日馬富士は,「9月下旬頃,都内の会合で,『俺は白鵬に勝った』『あんたたちの時代
 は終わった』など失礼な言動があったと聞いた」と弁明したというが,
 事前に「誰かによって」貴ノ岩への反感と偏見を刷り込まれていた可能性がある。

⑶ 対戦相手となることが確実な横綱どうしが,場所の直前に参集して酒を飲み交わす,
 ということ自体がけしからん。そのような不適切な場に,自分(貴乃花)の愛弟子
 (貴ノ岩)を引き入れること自体がけしからん。
 いくら酒の席とはいえ,「凶器」を使って「頭部外傷」を負わせたとなれば,
 「モンゴル」ではともかく,「日本の伝統的慣習」では,
 加害者本人の日馬富士と,その師匠・伊勢ヶ浜親方(元横綱・旭富士)が,
 被害者の師匠である貴乃花親方のもとに馳せ参じて来て,
 「貴乃花親方に対し」「土下座して」詫びるのが筋ではないか。
 ところが,現実には,貴ノ岩の方から,日馬富士に詫びを入れ,
 双方の日本人師匠の居ないところで,勝手に,「モンゴル系同士」で
 「手打ち」(和解)をしてしまったことになっているではないか!?
 バカものが!!

⑷ 本件暴行事件は,実質的には,「白鵬一味」による,「はぐれ猿」(貴ノ岩)
に対する「私的制裁(リンチ)」ではないか。何が目的か? 単なる嫌がらせではない。
「モンゴル系三横綱」を中核とする「馴れ合い」体質,「星の回し合い」仲間の思惑
から外れた行動をとった者に対する見せしめを意図したものではなかったか。
(日馬富士の「凶器を使ったやりすぎ」は,白鵬にとっては想定外だったかもしれないが,白鵬が,その場で,興奮した日馬富士を即座に制止し,なだめるといった言動・態度をとった様子は窺われない。「日馬富士を説得して店の外に連れ出した」という文春のくだりはあるが,その前に,「彼(日馬富士)は何度も“ビスター”《屈辱を与える隠語》と言って貴ノ岩を罵った。」という時間帯がしばらく続いていたことが窺われる。また,日馬富士が「カラオケのリモコンを“オーイー”と言いながらすごい勢いで投げつけた」という週刊新潮の記事が正しいとすれば,カラオケのリモコンを使って,貴ノ岩の頭部を殴打したという日馬富士の供述の信用性に疑問を差し挟む(はさむ)余地があろう。)

 実は,貴乃花には,
「八百長相撲」「馴れ合い相撲」に対する心理的アレルギーがあるのではないか?
何故か? 
実は,貴乃花自らがソレを「やってしまった」という痛恨の過去,自責の念があるからではないか?
1995年11月場所で,兄・若乃花と弟・貴乃花との兄弟対決による優勝決定戦の際,
 兄・二代目若乃花の2回目の優勝を「アシスト」するかのごとく,弟・貴乃花が腰砕けの負け方をした。
  https://www.youtube.com/watch?v=o1dOIhJNLw0
しかしながら,アノ一番は,私のような素人がみても片面的な「八百長」としか思えない,
貴乃花の無気力相撲だ。
初代貴乃花親方からは,「兄ちゃんのために,負けてやれ。」と懇願されていたのではないか?
と疑うのは私だけであろうか。その結果,「負けてやった」はずの上記一番(貴乃花からみれば「恩義」)を逆手にとって,「お兄ちゃん」(花田虎上)の方からは,それがあたかも兄弟「絶縁の理由」の原因であるかの如くに報道され(週刊新潮),憤懣やるかたないというのが,貴乃花の本音ではないのか?
この一戦の「トラウマ」が,貴乃花の「八百長相撲」に対する強度の反感・反発の背景に
あるように思える。

以上,⑴ないし⑷の心理的背景と,顧問弁護士の後押しが,
今回の事件後にみられる,貴乃花親方のトンガった頑な態度に投影されている
ように思えてならない。

(追記)このブログを読んでくれた方へ
        次のブログも是非読んでくださいね。

▼ 「モンゴルの国宝(こくほう)」は,「白鵬」ならぬ「黒鵬」か?―前編―

「モンゴルの国宝(こくほう)」は,「白鵬」ならぬ「黒鵬」か?―前編―

▼「モンゴルの国宝(こくほう)」は,「白鵬」ならぬ「黒鵬」か?―後編―

「モンゴルの国宝(こくほう)」は,「白鵬」ならぬ「黒鵬」か?―後編―