北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

「モンゴルの国宝(こくほう)」は,「白鵬」ならぬ「黒鵬」か?―後編―

つづき

本ブログ―前編―では,

本件で,貴乃花親方の頑なな態度の背景にある事件の本質に迫る
今回の「週刊新潮」,「週刊文春」のうち,
「週刊新潮」の要点の方を先に解説した。

ここで,ブログ読者に若干注意を喚起しておきたいことは,
「週刊新潮」の微妙な変化のことである。
 皆さんは,週刊新潮の報道姿勢が,先の報道に比べ,微妙な変化が窺われるのに,
 気づかれたであろうか。詳論は避けるが,先のブログで紹介した記事の他にも,
 週刊新潮の今週号は,「コンパニオン付き温泉旅行」に参加する八角理事長
 のことも批判的に報道しており,従来の「相撲協会寄り」を改め,
 相撲協会から,やや距離を置くようになった感じがするのである。

前編で解説した「週刊新潮」に対し,「週刊文春」の報道姿勢に変化はない。

先のブログでも指摘したとり,
相撲協会に対し批判的・反体制派的な記事が目につき,
貴乃花親方のシンパ(共鳴者)から数々の重要な示唆を受けているように
見受けられる。

今回の, 「週刊文春」の「目玉」は二つ
「総力取材『モンゴルの闇』に迫る!」と題して,
一つは,「大見出し」 「貴乃花VS.白鵬『八百長』の真実」
もう一つは, 「白鵬『愛人2ショット』と『危険なタニマチ』」だ。

今回の「週刊文春」は,「週刊新潮」とは異なり,
日馬富士暴行事件の実体的な事実関係には直接触れていない。
そして,上記二つの「目玉」記事を比べた場合,
前者の方が,本件暴行事件の背景事情(貴乃花親方の「告発」対象)
を示唆している点で,圧倒的に重要であるが,両者には,共通項がある。

そう,あからさまな 「アンチ白鵬」「白鵬パッシング」だ。

前者の看板記事が,白鵬主導のモンゴル系力士らによる「八百長」を告発し,
後者の「スクープ」記事は,白鵬への人格攻撃(愛人関係,暴力団関係を示唆するもの)で,

いずれも,白鵬の人格・品位をおとしめるものになっている。
そして,いずれの記事も,貴乃花親方・シンパの主張を代弁するものであろうが,
やはり,貴乃花親方の指示による「貴ノ岩による被害届」(告発)の目的が,
何となく透けて見えるではないか。

それと同時に,何故,白鵬が,あれほどまでに
「度を超えた」傲慢な態度をとれるか? が何となく透けて見えるではないか。

振り返ってみると,白鵬の一連の言動には,
怒りを覚える相撲ファンも多いのではないか。
(私は,地元愛知県が産んだ横綱「玉の海」の急逝と,「大鵬」の引退を経て,
 大関「増井山」の八百長問題を機に,大相撲からは,既に気持ちが離れている。)

①「貴乃花親方が巡業部長なら,巡業に行きたくない。」との白鵬発言(11月20日,八角理事長の講話の席上)
②九州場所11日目の嘉風戦での審判に対する白鵬の抗議行動(11月22日,審判に対し,「立ち合い不成立」を訴える)。
九州場所・優勝インタビューでの,白鵬の「日馬富士と貴ノ岩を,再びこの土俵に上げたい」発言「万歳三唱」(11月26日)

一体,何様だ? 横綱であれば,何でも許されるのか?
何故,相撲協会は白鵬に対し,レッド・カードを出さないのか?

ここまでくると,われわれ法律家の常識として,
「あること」「あらぬこと」を疑わざるをえない。
そう,レッド・カードを出さないのではなく,実は,出せないのではないか?
もっと露骨にいえば,
相撲協会は,既に白鵬に何か「弱み」を握られているのではないか。

相撲協会は,白鵬の「ナイラ(八百長)」を見て見ぬフリをして,
これを黙認してきたのではないか?
何故か?
それを「読むべき人」が読めばわかるように暴露・糾弾したのが,
今回の「週刊文春」ではないか?
というのが私の「読み」だ。

今回の「週刊文春」の「キモ」の部分を解説しておくと,

「貴乃花VS.白鵬『八百長』の真実」との記事の標題は,
▼「白鵬・前宮城野親方『300万円で星を買った』衝撃の証言テープ」
▼「八百長力士が本誌に告白『僕らはトカゲの尻尾切り』」
▼「モンゴル力士6人八百長廃業『出場ボイコット騒然』の汚点」
▼「貴乃花親方『強くなるには孤独になれ』と馴れ合い禁止」
▼「協会が厳重注意・モンゴル力士会・場所直前ゴルフコンペ」
▼「白鵬の連勝記録を三度ストップした『ガチンコ稀勢の里』」
という中見出しが並ぶが,本文の見出しとは一致せず,本文には中身がない。

一番最初の▼である「白鵬・前宮城野親方『300万円で星を買った』衝撃の証言テープ」が最初に出てくるかと思えば,何のことない,後の方で,「白鵬自身も八百長疑惑を報じられた過去がある。『週刊現代』が報じた〈朝青龍と白鵬の『300万円八百長』を宮城野親方が告白した『証拠テープ〉(07年6月2日号)がそれだ。」として,結局は,「闇」に葬られた,週刊誌記事を紹介しているにとどまる。しかしながら,上記文面をみる限り,それなりのインパクトはあるので,最初にもってきたのであろう。

むしろ,「週刊文春」が本文中で,真っ先に報じていることは,
東日本大震災とそれに伴って発生した東京電力・福島原発事故の報道の陰に隠れて,
結局は,「トカゲのしっぽ切り」でウヤムヤのまま「幕引き」された,
相撲協会を震撼させた「八百長問題」に関して,次のことである。

「…地に墜ちた当時の相撲界を,一人横綱として支えていたのが白鵬だった。
 『一枚看板である白鵬をはじめ,幕内上位陣に八百長疑惑が向けられるのは,
 是が非でも避けたかったはずです』(前出・運動部デスク)
 その渦中,報道陣から自身の関与や八百長を見聞きした事実はないか
 と問われた白鵬は,苦笑いしながらこう答えている。
 『ないということしか言えないじゃないですか』」

誰が聞いても,八百長疑惑を事実上認めるに等しい,不敵な回答ではないか。
が,白鵬自身,横綱関与の八百長まで暴露してしまえば,
大相撲の伝統が汚され,
日本相撲協会全体が回復困難な致命的打撃をうけることを熟知していたがゆえに,
このとき,白鵬は居直り,日本相撲協会に対し『貸し』を作ったのではないか。
「(内情は)黙っていてやるから,多少のこと(八百長)は大目にみろよ」と。
このような白鵬と相撲協会との「暗黙の取引」が,
前記①②③の白鵬の不敵・不遜な態度の背景にあり,
相撲協会が,白鵬にレッド・カードを出せない内情ではないか。
そして,そのような内情を「いつでも暴露する用意がありますよ。」と,
(あたかも北朝鮮の“伝家の宝刀”核ミサイルの如く)
警告・示唆するかのように,貴乃花親方の意向を示唆したのが,
今回の「文春」報道ではないのか。

さて,実は,今回の「週刊文春」を読んで,
私が問題を感じたところは,そのようなところではない。
「八百長疑惑」など既に過去の問題であって,再び蒸し返されることはないであろう。

実は,私が「義憤」を感じたことは,相撲協会・危機管理委員会のとった態度,
具体的には,高野利雄・危機管理委員長(元名古屋高検検事長)の行動から
「透けて見えてきた」風景である。

もとより,たとえ危機管理委員会なぞには,強制調査権限などないし,
われわれ弁護士業界でも,弁護士が不祥事(犯罪)を犯したと報じられたときでも,
「無罪推定の原則」に配慮して,警察・検察の捜査を経て,処分が決まるか,
裁判が確定するまでは,コメントを控え,独自の調査は控えるのが本来・常識である。

ところが,高野利雄・元名古屋高検検事長が,
相撲協会・危機管理委員長として取った態度はどうだったか。

「週刊文春」によれば,危機管理委員会は,
「中間報告とはいえ,肝心の被害者の話をまったく聞かない段階で,
『相当程度,事実解明に至っている』と明言し,さらに加害者寄りの
解説まで加えている会見」をし,
高野氏は,理事会の場から鳥取県警に電話を入れて,協会の貴ノ岩
聴取は捜査の支障がないとの言質をとり,貴乃花親方に調査への協力を
迫りました。…」とあるではないか。

ありえない!!
元高検検事長の要職を務めた法曹関係者の態度・行動として非常識極まりない。
詳論は避けるが,鳥取県警(鳥取地検)と相撲協会との間で,
既に『ストーリー』(筋書・落としどころ)ができあがっているからこそ,
とれる行動・態度である。
換言すれば,
「白鵬は共犯にしない」という捜査方針ありきで,
日馬富士に対する捜査は,
実は,本来的に「手抜き」ミエミエの『国策』捜査なのだ!!
ということが高野元高検検事長の捜査機関をなめた態度から推察されるのである。