北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

「モンゴルの国宝(こくほう)」は,「白鵬」ならぬ「黒鵬」か?―前編―

10月26日未明に発生した,元横綱・日馬富士の暴行事件について,
元東京都知事の石原慎太郎氏が,12月4日,ご自身のツイッター上で,
「これはあくまでも作家としての推測だが」と前置きした上で,
白鵬の千秋楽での驕った態度等を根拠として,日馬富士暴行事件の真相は,
「白鵬が」弟分の日馬富士を「そそのかせてやらせたのではないか」と公言し,
白鵬が主犯者的な役割を担っていたのではないかと推測している
(以下「白鵬=黒幕説」という。)。

石原元都知事が,自らの公言について,「これはあくまでも作家としての推測だが」という留保をつけたのは,いうまでもなく,白鵬に対する「名誉毀損」に係る法的責任を回避する趣旨であろうが,石原元都知事が内心では白鵬=黒幕説を確信しおり,客観的にみても,その「確信」が「核心」を突いているように思えることは,四囲の客観的状況から,誰しも認めることではないだろうか。

ところで,
私も,「名誉毀損」を避けるべく,これまで明言を避けてきたが,
既に石原元都知事の上記ツイッター投稿よりも「10日も前」から始めた,
日馬富士暴行事件に関連する,一連のブログにおいて展開してきた推理も,
全て「白鵬=黒幕説」を前提としている。

 ブログ「週刊誌で読み解く,横綱日馬富士・暴行事件の深層(真相?)」
           https://www.kitaguchilaw.jp/blog/?p=1136
   ブログ「続・週刊誌で読み解く,横綱日馬富士・暴行事件の深層(真相?)」
      https://www.kitaguchilaw.jp/blog/?p=1145
   ブログ「続々・週刊誌で読み解く,横綱日馬富士・暴行事件の深層(真相?)」
                 https://www.kitaguchilaw.jp/blog/?p=1149

 

すなわち,上掲ブログの冒頭「1.はじめに」で,日馬富士暴行事件について,
「外観的には『酩酊した横綱による行き過ぎた仕付・制裁』のように見えるが,
 私個人としては,『黒幕』的存在(「正犯(日馬富士)の背後の正犯」)
なしに本件は語れない,と考えている。」
と述べたが,これは,まさに,石原元都知事の推理と同旨である。

「正犯(日馬富士)の背後の正犯」というのは,
1950年に,ランゲ(ドイツの刑法学者)によって創唱された刑法理論
「正犯の背後の正犯(Taters hinter dem Tater)」の流用・モジリである。
具体的に敷衍すると,大横綱・白鵬に対する「生意気」「無礼」な態度は,暴行による制裁にも値するといった独善的な倫理観をもち,かつ,短絡的・単細胞的な感情行動をも辞さない酩酊した第三者(媒介行為者[日馬富士])を利用する背後者(正犯と同等の処罰に値する人物)の存在という趣旨である。

ただし,弁護士が「証拠のない」ところで,
あれこれと他人の犯罪事実に関する「推測」を述べることは,
やはり名誉毀損になりかねない(「真実性」の証明ができない)。

そこで,今回のブログでも予め私のスタンスを明らかにしておきたい。
私の場合は,
あくまでも「週刊誌の報道事実が正しいという仮定・前提」のもとで,
「捜査官の立場から」本件(日馬富士暴行事件)について,
「誰に対し,どのような嫌疑をもって捜査に臨むべきか」という視点に立ち,
捜査機関(鳥取県警・鳥取地検)の本件での対応について,
批判的に検討するのが本旨である。

私としては,鳥取県警・鳥取地検が,
白鵬をターゲットとして捜査を「懈怠(けたい)」(さぼること)しているのは,
不公正・不正義・怠慢だという価値観をもっているが,
もとより,本件での白鵬の関与については,「証拠がない」以上,
「嫌疑をもつべきだ」という主張にとどまり,それ以上に,
「鳥取県警・鳥取地検が,捜査を真面目にやれば,有罪証拠が揃うはずだ。」
とまでは断定するつもりはない。

以上の前提のもとに,私は,既に,

 千秋楽でとった白鵬の態度を批判し,
    (参照)「[番外編]おかしいだろう!!」
        https://www.kitaguchilaw.jp/blog/?p=1172
   鳥取県警の捜査態度を批判的に検討した。
    (参照)「何故,鳥取県警が「傷口写真」の公表に「激怒」するのか?」
               https://www.kitaguchilaw.jp/blog/?p=1198

 

さて,先般,「週刊文春」と「週刊新潮」とが,
再び,こぞって,日馬富士暴行事件を特集記事を報道したが,
ご存知のように,今回は,両誌ともに,
「貴乃花」対「白鵬」の対立構造を前面にうちだしている。

そして,両誌の報道内容を「裏読み」すると,いよいよ,
私の一連の前記ブログの推測が「やはり正しかった」のではないか?
と思わざるを得ない。

前置きが長くなったが,
週刊誌を精読・裏読みしている「ヒマ」などない方のために,また,
法律専門家(弁護士)の「目の付けどころ」に興味のある方のために,
今回の「週刊文春」「週刊新潮」両誌の報道から浮かび上がってきた,
「由々しき社会構造」に関する「見方」(推理)を紹介するとともに,
従来の自説を補強しておきたい。

 

まず「週刊新潮」

「肉を切る『白鵬』骨を断つ『貴乃花』」という大見出しで,
日馬富士暴行事件が,実は,
「白鵬VS貴乃花」の対立構造を背景とする事件であることを
正しく捉えている。
これに次ぐ,「週刊新潮」の中見出しは,
「大銀杏が怒髪と化した『貴ノ岩』の一言『俺はガチンコで横綱白鵬に勝った』」
「凶器はやはり『ビール瓶』!? 共犯『白鵬』の偽証疑惑」である。

前者は,貴ノ岩が白鵬との「初顔合わせ」で,
白鵬に「ガチンコ」(真剣勝負)で勝って,
白鵬の「優勝の目(め)」をツブすとともに,「面目(めんぼく)」をツブし,
稀勢の里の幕内初優勝をアシストしたこと,そして,
白鵬の「横綱街道」が「ガチンコ」(真剣勝負)だけでは説明のつかない要因
(具体的には,「八百長」,「星の回し合い」)に支えられてきたこと
を匂わす発言に対する,白鵬の逆恨み・恨み骨髄が
事件の背景にあることを示唆しており(小見出し「白鵬の記録更新にも疑問」),
それが,本件暴行事件が白鵬によって誘因されたものであることを指摘している。
そして,これらの事情は,
先のブログで既に指摘した「白鵬=黒幕説」を裏付ける事情である。

他方,後者の中見出し
「凶器はやはり『ビール瓶』!? 共犯『白鵬』の偽証疑惑」)は,
私が最初のブログで既に指摘したことである。すなわち,
貴ノ岩(被害者)=貴乃花の被害申告とは,正面から対立する事実関係を,
「対立当事者である」白鵬が真っ先に主張し,それに合わせるかのように,
日馬富士も「ビール瓶」の使用を否定する供述をしており,
そのことについて「偽証疑惑」があるというのである。
このような事情も,実は,
白鵬自身が,事後に「事件」を「描き」,
それを統率するかのごとくに「事実」を「規制し仕切ってている」ことを
示しており,「白鵬=黒幕説」を基礎づける有力な手掛かりとなりうるものである。

さて,今回の「週刊新潮」の指摘のなかで,私が注目した点は,次の諸点である。
(なお,他の報道でも既に指摘されていることかもしれないが),

1.第1に,
 相撲協会の理事会(11月30日)の理事会で,
同協会・危機管理委員会が,「被害者(貴ノ岩)の聴取」もしていない段階で「中間報告」をしているところ,その内容として,本件暴行に至る経緯として,白鵬が貴ノ岩に対し,一次会・二次会と連続して,
白鵬が貴ノ岩(と照の富士)に対し,「9月の粗暴な言動」に関して,説教をしたが,
その「9月の粗暴な言動」の内容自体が不明瞭なままである,ということである。
しかも,「週刊新潮」によれば,「9月の粗暴な言動」には,本年9月,
貴ノ岩が,酒場(東京都・錦糸町「カラオケBARウランバートル」)で,度々,
「俺はナイラ(八百長)はやらない」と宣言したことが,
これに「含まれることはいうまでもない」と報道していることである。

もし,これが事実であるならば(多分,「週刊新潮」の指摘どおりであろう。),
白鵬の相撲の「由々しき実態・実情」を示しているものとして興味深い。
すなわち,「俺はナイラ(八百長)はやらない」という発言は,
「言葉の表面の意味」を捉(とら)える限り,賞賛に値する正当な発言である。
何故,白鵬が,このような貴ノ岩の正当な発言に「反応」して怒るのか?
裏を返せば,
「俺はナイラ(八百長)はやらない」の「裏の意味」は,
「現在の相撲界は,八百長相撲が横行している。それを仕切り,支配しているのは,
白鵬だ。白鵬の連勝記録・優勝回数は,『ナイラ(八百長)』なしには語れない。」
ということを指摘しているのであって,
このような「裏の意味」(皮肉)を含んでいるからこそ,白鵬が怒るのではないか。

人間は,自分とは無縁・無関係なこと,「自分はやっていない。」と胸を張って
言い張れることについては,「後ろ指」を指されても,まずは怒らない。
『図星(ずぼし)』,『弱み』を指摘されたときにこそ,逆上する
のが人間の本性(さが)である。
とすると,白鵬が,貴ノ岩の「9月の粗暴な言動」に憤激し,
このことで,白鵬が,貴ノ岩に対して,くりかえし説諭したとすれば,
まさに「語るに落ちた」というべきであって,
「俺様(白鵬)のやっていること(ナイラ=八百長)にケチをつけるのか?」
「相撲業界で,生きていきたいなら,俺様(白鵬)のやること(ナイラ=八百長)
に逆らうと,どうなるかわかっているのか?」と半ば脅迫していたのではないか,
といった推理が成立してしまうのである。

2.第2に,当初,日馬富士の「暴行」に使用された,『凶器』は,
11月14日の時点での相撲協会の聴取に応じた,貴ノ岩も貴乃花も,
「ビール瓶で殴られた」と証言していた(「照の富士」もスポニチがスクープの前から,周囲に「貴ノ岩が日馬富士にビールで殴られた」と話していた,というのだ。)
のに対し,
白鵬さえも,日馬富士が「ビール瓶を手に持ったこと」までは認めながら,
「(日馬富士がビール瓶を)持ったのは持ちましたけど滑り落ちました」
などと不自然・不合理な供述をしていたところ,
11月30日の相撲協会理事会で,危機管理委員会が発表した「中間報告」では,
「日馬富士の手からすべり落ちたのは,(ビール瓶ではなく)シャンパンのボトル」
だとされている,つまり,
「週刊新潮」が,「ビール瓶は事件現場から“消えた”のだ。」
と痛烈な皮肉をこめて報じていることである。

凶器として,手に持った「ビール瓶」が落ちたのか,手に持った
「シャンパンのボトル」が落ちたのか,という点に関する変遷は不合理ではあるが,大した問題ではない。

問題なのは,著しく不自然・不合理な白鵬の供述の一部を
他ならぬ「相撲協会・危機管理委員会」が受け容れ,
これを鳥取県警・鳥取地検の最終処分が決まる前に
堂々と公表してしまっていることだ。
ありえないことだ!! 
この由々しき問題については,別途,後で論ずるが,
要するに,鳥取県警・鳥取地検・相撲協会が「癒着(ゆちゃく)」し,「グル」になって,
「ビール瓶」を「封印(ふういん)」してしまった疑いが濃厚である。

さきのブログでは,元旭鷲山がネットで公表した貴ノ岩の傷口の写真によれば,
当該創傷は,カラオケのリモコンの側面で叩きつけたことで発生したとみて矛盾がない
という法医学者・医師の見解を紹介した。しかしながら,だからといって,
ビール瓶=凶器説が完全に否定されたわけではなく,私は,個人的には,
ビール瓶の上方を手に持って,ビール瓶底面の円形・辺縁の角を頭部を叩きつけた
可能性を疑っている。

3.第3に,「誰が」日馬富士の暴動を制止しようとしたのか?という問題である。
「週刊新潮」によれば,白鵬は,警察からの事情聴取に対し,
「貴ノ岩を殴る日馬富士の行動を制止したのは,自分(白鵬)だ。」と説明した。
これに対し,貴乃花側の関係者の供述によれば,
「鶴竜(横綱)」が,「暴行の最中に『俺のしつけが悪いのがいけないので,
これで勘弁してやって下さい。』と言って」貴ノ岩を助けようとし,
「照の富士」は,日馬富士の暴行を止めようとして,照の富士も殴られたという。

どちらの供述の方が信用性が高いであろうか。
相撲は「縦社会」であり,モンゴル系力士の間では,「白鵬」の存在・指令は,
絶対的なものがあると考えられる。
もし白鵬が,本気で日馬富士を制止すべく,語気強く「止めろ!」といえば,
「鶴の一声」ならぬ「鵬の一声」で,
日馬富士などビクッとして,手を止めたのではないか。
ここでも,白鵬は虚偽事実を警察に申告している疑いが濃厚である。

「週刊新潮」の記者はいう。
「“田舎警察”と揶揄されることもある鳥取県警だが,
 さすがにこうした疑惑をウヤムヤにしたまま捜査を終結させることは
 あり得ない。」と。

 私は,同記者に対し,一言「アホ!」と申し上げたい。
  私の感覚は,180度違う。
 “田舎警察”だからこそ,「国策」捜査に協力してしまうのである。

つづく