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シャーロック・ホームズが自重した,人生の歓び

シャーロック・ホームズは,ご存知のとおり,コナン・ドイルが創作した,非凡な論理的推理力を駆使する名探偵だが,彼は,本業において論理的な推理に傾注する裏で,人生の歓びの2つを自重・放棄したようだ。1つは,「恋愛」の歓びであり,もう1つは,「芸術」の歓びである(もともと,これらには関心・興味がなく,これらの歓びを本業のために「犠牲」にしたという意識もなかったであろうが)。

「私(ワトソン)が知る限り,彼(ホームズ)は,前代未聞の,完璧な思考力と観察力を兼ね備えた最高の機械(マシーン)だ。しかし,恋愛という観点からみると,彼は,場違いなところに立っていることになるのかもしれない。彼が恋愛を語るときは,決まって嘲笑的な批判が含まれている。観察機械である彼にとって,心が揺さぶられるような激情は,隠れた動機や行動を分析するための観察対象だった。しかし,理詰めの思考をする彼自身の心にそのような感情が紛れ込むことを許せば,精巧・精密な精神に混乱を招き,推理で得た結論の信頼性が根底から失われる危険がある。彼のような性格の人間に,愛という衝動が混入すれば,精密機械に混入したチリや,顕微鏡のレンズのひび割れなどとは比較にならないほど,壊滅的な結果を招くはずだ。」(『ボヘミアの醜聞』1891.7より)。

シャーロック・ホームズは言った。「芸術を芸術のために愛する男が,一番くだらない,一番地味なもに,一番歓びを感じるというのはよくあることだ。」『ぶな屋敷』1892.6より)。

 

先日,休養中にブラブラし,丸善に立ち寄ったところ,北原尚彦(文),村山隆司(絵・図)「シャーロック・ホームズの建築」が平積みされていたので,買ってみた。シャーロック・ホームズの原作の描写や建築用語などを抽出・分析して,当時(19世紀末,ビクトリア朝の末期)の建物・建築様式を再現・考察するという興味深い本だ。
この関係で,上掲引用部分を含む短編,『ボヘミアの醜聞』と『ぶな屋敷』を読み返してみた。

 

「ブライオニー・ロッジ」(『ボヘミアの醜聞』より)

 

「ぶな屋敷」(『ぶな屋敷』より)