筒井康隆の「最後の短編集」（？）だというので、購入して読み始めたら、いきなり普賢菩薩の真言が出てきた（『カーテンコール』新潮社所収「深夜便」）。

「こんなものが手に入ったわ」ママが秋刀魚の塩焼きをふたつ持ってきた。「山岡さんは夕方から何も食べてないわ。食べて頂戴」
「おん秋刀魚やさとばん。おれは今、さんまやタリバンあははは」おれはまた無意味に笑った。…

（注）「おん（唵）」とは、オウム真理教の 「オーム（om）」と同じで、真言を唱える際の接頭語のようなもの。「さんまや（三昧耶）」とは、本来、真言宗に入門する者が受けるべき戒であり、文字の上から解釈すると仏・法・僧の意である（空海『平城天皇灌頂文』）。
これが、「オン・サンマヤ・サトバン」になると普賢菩薩の真言を指し、この普賢菩薩は、衆生 ( サト ) と仏 ( バン ) とは、本来不二平等 ( サンマヤ ) であることを体現する菩薩であると説かれる。
　ちなみに、普賢菩薩の「普」とは、すべてのところにゆきわたること（「遍一切処なり」）、「賢」とは、最も妙（たえ）にして善の意味（「最妙善の義」）である（空海『秘密三昧耶仏戒儀』）。

世も末だ。イワシは美味いが…