北口雅章法律事務所

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このグロテスクな顔は,男か女か?

文藝春秋12月号では,
中野京子氏の連載「名画が語る西洋史」で,
神聖ローマ皇帝に仕えた宮廷画家アルチンボルドの作品「水」(1566)が紹介されていた。この「水」は,「人面と水棲動物のダブル・イメージ」で,グロテスクな迫力の作品であることに異論はない。

中野女史は,「さて,驚いたことに,この水棲人間は宮廷女性との説もあると述べた上で,「この絵が本当に宮廷女性なら,画家はそうとう悪意をもって表現したことになる。それとも宮廷女性と主張する研究者自身が,女性恐怖症の男性だったのだろうか・・・」と論じ,女性説を否定し,女性説の論者を揶揄している。

だが,はたして,そうだろうか?

私は,宮廷女性を描いた,という女性説が正しいと思う。
中野女史は,①「赤いサンゴ」の髪飾りは,「帽子の飾り」であり,②「真珠のピアス」は,「当時は男のピアスは当たり前」などと女性説の根拠を批判した上で,③ヒゲが生えている,④「(頬の)灰色のエイは武具の面頬に思える」などと男性説の根拠をあげる。

なるほど,「真珠のピアス」(②)は,当時男性もしていたかもしれないが,男性が真珠のネックレスをしたであろうか。この絵の人物画は,目とピアスとネックレス以外は,全部,水棲生物である。つまり,水棲生物以外の部分である「真珠のピアスと,真珠のネックレス」は明らかに女性の装具である。そして,目も,なんとなく瞳が女性的であるし,エイのヒレを使った睫毛(まつげ)も女性的である。
そして,口元に位置するサメの口の赤は,やはり女性の口紅のように思える

かくて私は,中野女史から,「女性恐怖症の男性」と揶揄されるのであろうか。確かに,その嫌いがないとはいえないが・・・