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神岡町の円空―地図でたどる事跡(和歌と神仏像) 前編

 

 円空は、飛騨高山の千光寺に逗留し、その周辺で造仏活動をした後、神岡町(飛騨の最北端)を北上・経由して、越中・細入村(富山県)に向かったと考えられる。本ブログでは、円空の事跡(和歌と神仏像)が遺る、神岡町の西側約半分の区域(上掲)青枠部分の地図(下掲)をもとに、神岡町内での円空の事跡をたどってみたい。

 

 神岡町内での円空の事跡については、岐阜県吉城郡神岡町教育委員会発行・神岡町文化審議会編集「神岡の円空仏」(平成10年;1998年。以下「神岡町本」という。)に、ほぼ網羅的に記載されているが、遺憾ながら、本書では、肝腎の地図が掲載されていない。加うるに、神岡町本では、神岡町内の地名が詠み込まれているがゆえに円空が神岡町内で詠んだと考えられる和歌も網羅的に紹介されているが、遺憾ながら、各和歌の校注・現代語訳が載せられていないため、一般読者がその内容を理解し、円空の事跡をたどるのは著しく困難である。
 そこで、上掲地図上で認められた地名・寺社名と、円空の和歌に詠み込まれた神岡町の地名及び円空仏の所蔵地とを照合させつつ、神岡町本に掲載されている円空仏のラインナップと、円空の和歌に関する私の解釈を整理しておきたい。なお後掲写真は、すべて神岡町本からの引用である。
 上掲地図上の赤色番号(❶~❾は、円空が和歌を詠んだ場所(和歌の中に地名が読み込まれている)を指し、黒色番号(❶~⓯)は、平成10年の時点で、円空の神仏像の存在が確認された場所である(神岡町に遺る円空仏は、すべて像高70㎝未満の尊像で、持ち運びが容易であることから、所在地が造顕地と一致するとは限らないが、本ブログでは、円空仏の所在地=造仏地とみなして、地図をたどることになる。)。なお、神岡町最南端の【小萱(こがや)】での事跡和歌❶、神仏像❶❷)については既に別ブログで取りあげたので、本稿はその続編となる。分量の関係で、前編(野首❸~吉ヶ原❹まで)笈破❺以後)の二編に分けて、円空の事跡をたどることにする。

 

❸【野首(のくび)】

左から、伊勢太神牛頭天王八幡大菩薩で、いずれも神明神社蔵である。神仏名が特定できるのは背銘として墨書されているからである。

 

❹【麻生野(あそや)】

薬師如来(両全寺蔵)

 

【東雲(あずも)】

ありがたや東雲(あずも)の里(さと)の燈(ともしび)は、海(わだつみ)の神かとぞ思ふ
(原文)在かたやアすもの里の燈ハ渡津の海の神かとそ思ふ[一二五八]

[大意(解釈)]真っ暗な、霧の立ちこめた山道を歩いて行くと、ありがたいことに、遠方に東雲の里の人家の灯火が見えてきた。まるで龍神のようだ。一晩泊めていただくとしよう。

 

❺【殿(との)】

左から薬師如来(円城寺蔵)、不動明王(円城寺蔵)、韋駄天(瑞巌寺蔵)

 

❻【東町(ひがしまち)】

白山妙理神(白山神社蔵)

 

❼【寺林(てらばやし)】


白山大神(若宮八幡神社蔵)

 

【舟津(ふなつ)】

舟戸町(ふなとちょう)あたの小川の神ならば

 一(はじめ)の滝の主(あるじ)在せ(ましませ)

(原文)舟戸丁あにの小川の神ならは一の瀧の主し在せ[六四九]                      

[注]「船戸丁」=船戸町は「舟津」のこと(吉田富夫「高賀神社蔵円空自筆詩歌集について・2」円空研究=2・101頁)。「あた」は原文(自筆詩歌集)では「あに」と標記されているが、神岡町本では「あた」となっている。おそらくは、「に」と「た」の字形が類似し、原文では、「に」にも「た」にも読むことも可能な表記となっているのであろう。本稿では、「あた」の方を採用した。
[大意(解釈)]舟津(=「あた」=「あなた(彼方)」)を流れる小川に御座(おわ)す神様(水神=龍神)であれば、(この地方で)一番大きな滝の主(ぬし)であらせましょう

 

舟戸町(ふなとちょう)朝こそ清けれ法道(のりのみち)(いわお)の肩に掛かる橋かな
(原文)舟丁町朝社(こそ)清れ法道岩ノ肩ニ掛る橋哉[三〇二]

[大意(解釈)]舟津の朝は清々(すがすが)しいものです。まるで切り立った岩の付け根に橋が架かり、仏法の道(修験道)が開けたような気分です。

 

❽【和佐保(わさぼ)】

二十五菩薩(光円寺蔵)

 

❾【伊西(いにし)】

観音菩薩(神明神社蔵)

 

❿【吉ヶ原(よしがはら)】

吉か原清き旅人の□□(不明) 水(の)巌(いわお)の下の苔庵(たいあ)
(原文)吉か原清き旅人の□□(不明) 水岩をの下の苔庵に[二九九]

[歌意]吉ヶ原を流れる清流には、巌(岩)が突き出ている。その巌の下には、龍神様が御座(おわ)す、水苔(みずごけ)で葺(ふ)かれた(覆われた)庵(いおり)があります。

[解釈]幻想歌であろう。となれば、□□には、旅人(仏道を歩む修験者)の縁(よすが)となる場所という趣旨の詞が入っていたものと解される。

白山妙理権現(個人蔵)

 

             ・・・後編につづく