北口雅章法律事務所

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ゴッホの靴の絵

ハイデッガー曰く「…その靴がどこにおかれているかもはっきりしないし、そのまわりには漫然とした空間があるだけだし、所有者も分明でない。…一足の農民の靴、ただそれだけである。しかしそれにもかかわらず、この靴のくり抜かれたような暗い内部からこちらを凝視しているものは、働くことの歩みの辛さである。この靴の丈夫な重たさのうちに、吹きすさぶ風のうちで長い単調な畦(あぜ)をのろのろと歩いた根気がこめられている。草には大地のしめりが充分にあり、踵の下では黄昏の道の寂しさがうごめいている。靴の中にたゆたっているのは大地の沈黙の呼び声、麦秋の贈与を伝える大地の静けさ、冬の枯れ畑にみなぎる大地のわけしらぬ拒絶である。この靴を通して、生きるためにはすべてに耐える心労、苦難をひたたび克服したという喜び、が揺れ動いている…」

これは、「解釈学的な見方の精髄ともいうべきものである」(霜山徳爾著「人間の詩と真実 その心理学的考察」中公新書)