北口雅章法律事務所

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岡田独甫(どくほ)さんの短歌

今朝(令和4年5月1日)の「天声人語」で,
「独特のユーモアが漂う」短歌を詠まれる
亡岡田独甫(どくほ)さん(僧侶)のことが紹介されていた。
朝日新聞の歌壇投稿の常連だったもよう。
「広島県三原市の僧侶」としか書かれていないが,
佛通寺(ぶっつうじ)であれば,臨済宗ですね。

「天声人語」で紹介されていた短歌は,次の数首。

〈核兵器持つ大国も0.1ミクロンの敵にあたふたしをり〉
〈ばあさんが孫にと作るとうきびを猪めらが夜に来て喰う〉
〈スケールはゴーンに比して微々たれど我が心にも強欲存す〉
呆(ほう)けたる爺が葬儀後僧われに「儲(もう)けたのう」と声を掛けくる
〈檀徒よりしばしば魚を貰ふためホームセンターで「ウロコ取り」買ふ〉
〈今宵また風呂から上がり酒を飲み身に宿るガンともどもに酔う〉
葬式のお布施の包みが空っぽで待って欲しいと紙片がありぬ

最初に,歌壇に載せられたのが,上から2番目の歌とのこと(当時,和尚55歳)。たしかに初登壇以降の作の方が,ユーモアが濃厚ですな。

ネットで調べると,和尚のファンとおぼしき方が,
和尚の作品集を紹介していた。
ユーモアの内には,壮絶な闘病生活があり,ペーソスもある。

〈がん細胞骨転移して知らぬ間にわが身の内で陣地を広ぐ〉
父は杵で吾は電動で正月の餅をつきしが子は店で買う
〈転移せししつこきガンに放射線照射受けをりしつこく生きむと〉
〈退位近き天皇何度も手を振りて退席しゆく天覧相撲〉
〈酒飲めば去る日近づくうつし世で出会ひし人の貌思ひ出づ〉
〈終活の一環として愛着を断ち切り蒐めし書画を処分す〉
〈寝床にて明日したきを考ふる 生きて目覚むる保証なけれど〉
寺を継ぎ娶らぬ嗣子を責めてをり妻帯禁止の時代もありしに
くれぐれもドンと座すなと言われたり圧迫骨折案ずる檀徒に
〈癌を病み四年が過ぎぬ楽観も悲観もせずに今日も楽しむ〉
「生きていれば色々あります僕だって」若き主治医は言いかけて止む
〈歴代の住持の墓所にイノシシが沼田場を掘りて雨水溜めをり〉
歯医者には言ひにくけれど失くしたり作りて間のなき部分入れ歯を
〈若和尚に嫁のおらねば妹が寺の法要の手助けをする〉
〈令和の世安寧であれ元号で時代の定まることはなけれど〉
〈老人が施設に入るや逝くやらで空き家ふえゆく子は町に住みて〉
〈法隆寺金堂火災を思ひ出づ大聖堂の焼け落つる見て〉
(註)この歌の「大聖堂」は,「ノートルダム大聖堂」のこと
  (私もブログに書いていた。2019-04-22)

 

スーパーの買い物カートに挿し置きし杖をまたもや忘れ帰り来
ファックスで戒名送れと電話あり遠き檀家に急に死者出で
〈四十年前寺継ぎし日の二十人の総代今や一人のみ生く〉
〈これほどにゴミは無かりき牛肉が竹皮包みで売られし頃は〉
〈オバマ氏は広島へ来しがトランプ氏はゴルフに興じ大相撲観る〉
弾となり人殺せしか我が寺の供出させられし釣り鐘は
〈あがかずに逝きたく思へど叶ふまじあがくあがく末期を数多見て来し〉
〈祖父の代夜陰にまぎれ山伝いにハンセン病の男寺に来けり〉
探査機が惑星に行き砂採るに台風も豪雨も制しえず
祖父建てし立派なる墓を不便だと都会住まいの孫が撤去す
〈耐乏の時代を知らぬ娘子がテレビに映り大食い競う〉
〈いつもより力を込めて若和尚原爆投下の刻に鐘つく〉
〈台風の荒るる最中に新盆の経を読むため檀家に出向く〉
〈長生きで幸ひなりとは限らぬに欲張りの吾は長生き願ふ〉
〈診療科二つ受診し薬五種受け取りもどる半日かけて〉
遠方の檀家三軒相次いで墓じまいして檀家を離る
〈運転の免許を返納する老いは要介護となるリスクありとう〉
〈省みれば上求菩提と下化衆生おろそかにして布施受け生き来〉
〈老い進み冬の衣に冬の袈裟前にも増して肩に重しも〉
競争心老いにもありて級友が認知症検査の得点誇る
〈はろばろと被爆地に来て教皇が核は要らぬと世界に宣す〉
〈海近き寺に住する僧の吾はしばしば魚を貰ひてさばく〉
〈老いてなほ歴代住持の墓所を掃く転ばぬように気をつけながら〉
〈下ろしたる今年最後の年金で子らを集めて忘年会をす〉