北口雅章法律事務所

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「ガザ」戦線はいつまで続くのか

 令和5年10月7日(現地時間)、パレスチナ(イスラム)の武装勢力「ハマス及びイスラム聖戦(PIJ)」が、突如、イスラエルに向けてロケット弾を多数発射し、越境攻撃するとともに、ガザ地区から武装戦闘員がイスラエル国内に侵入し、1400名を殺戮、子ども・高齢者を含む240名以上を人質にとった。許しがたい「問答無用のテロ攻撃」だ。

 

 これに対するイスラエルの報復攻撃が凄まじい。
 11月4日の朝日新聞によると、ガザ地区への報復攻撃・空爆は既に1万回を超え、45%の家屋を破壊し、ガザ市包囲が「完了」したという(既に地上作戦を展開しているとみられる)。

 

 アメリカは、イスラエルの同盟国として、イスラエルからの攻撃の正当性を肯認しているので(国連の停戦決議には拒否権発動)、イスラエルに影響力をもち、歯止めをかけられる存在はない。アメリカのブリンケン国務長官は、11月4日、アラブ諸国(サウジアラビア、エジプト等)を歴訪して会談に臨んだが、「溝」が明確になった。アラブ諸国が「即時停戦」を主張したのに対し、ブリンケン国務長官は、停戦はハマスら武装勢力の立て直しの機会を与えるだけであるから、「人道的な中断」に止めるべきだと主張したという。ブリンケン国務長官も、実は、ユダヤ系であって、祖父母の世代から家庭教育で「イスラエルへのシンパシー」を植え付けられているのだ。

 外野的には、「人質全員の解放」をもって「手仕舞い」してもらいたいところだが、イスラエルとしては、パレスチナ(イスラム)の武装勢力「ハマス及びイスラム聖戦(PIJ)」、特にハマスに対し、壊滅的な打撃を与えない限り、気分と世論が収まらないであろう。
 アメリカにおいては、アフガン戦争で手痛い思いをした経験があるはずだが(20年にも及ぶ戦争のはて、無残にもアフガンから「屈辱の」撤退をしたが、この20年間で民間人4万7000人が犠牲になったという。)、イスラエルは、これまでの中東戦争では、戦闘では殆ど負なし、である。しかも、イスラエルは、今回ハマス等から受けた無差別・越境攻撃を、イスラエルにとっての「9・11」として位置づけているという。
 「9・11」とは、アメリカのアフガン戦争の端緒となった、イスラム原理主義的武装組織「アルカイダ」が、2001年に企画・実行した「同時多発テロ」事件のことだ。「9・11」のときは、アルカイダを匿ったタリバン政権下のアフガンにアメリカが侵攻し政権を倒すとともに、「首謀者」が「ムハンマド・ビン・ラディン」と特定され、アメリカは特殊部隊を使って、その殺害に成功したが、結局、アメリカ的民主主義はアフガンには根付かず、タリバン政権が復活し、アメリカはアフガン撤退を余儀なくされた。

 だが、イスラエルが、イスラム原理主義的な組織を壊滅に追い込むのは無理であろう。
 確かに、最新鋭兵器を備えたイスラエル軍は強い。過去の度重なる中東戦争で、戦闘面で、イスラエルが負けたことはない。

 しかしながら、イスラエルが奇しくも、今回ハマス等から受けた無差別・越境攻撃を、イスラエルにとっての「9・11」として位置づけているところに象徴されるように、「イスラエルの正義」を貫くには、必ずしも条件が揃っているわけではない。

 第1に思うことは、イスラエルの諜報組織(モサド)の能力低下だ。そもそもパレスチナ(イスラム)の武装勢力「ハマス及びイスラム聖戦(PIJ)」の奇襲攻撃を許したところに、モサド(スパイ網)の能力低下を想わざるを得ない。
 第2に、素人的には、ハマスには、アルカイダの「ムハンマド・ビン・ラディン」のような中核的・カリスマ的な統率者が存在せず、「首長の首を刎ねる」ことでは、組織的なダメージを与えることができない、ということだ。「ハマス及びイスラム聖戦(PIJ)」の奇襲攻撃は、パレスチナ=イスラム勢力にとっては、「テロ」ではなく、正当行為であり、「聖戦」なのだ。パレスチナ=イスラム勢力は、「報復への報復」に「自爆テロ」を辞さないであろう。イスラエルは、アフガン戦争の教訓を思い知るべきではないのか。
 第3に、イスラエルの「正義」に対しては、国際世論も、かなり冷たい眼が注がれている、との印象を受ける。やはり、学校や救急車を標的にしてはいかんだろうが。イスラエル軍の弁明によれば、「ハマスが救急車で戦闘員や武器を運んでいるという情報があったことから、ハマスを標的とした。」とのことであるが、何ら合理的な根拠のある主張とはいえず、失態というべきであろう(諜報能力の低下を裏付ける)。