弁護士のブログBlog
「ルーベンス」の鑑賞
- 2025-10-02
先般、加藤新太郞先生(元東京高裁判事、元司法研修所教官)が法律雑誌で推奨されていた、仲谷栄一郎先生(弁護士)著「本と出会う本」の中から、秋田麻早子著「絵を見る技術 名画の構造を読み解く」(朝日出版社)を読んでみた。
名画を構造的に読み解く視点や着眼点が、「言語化」されて、分かり易く解かれていた。とはいえ、芸術鑑賞にかけては、私も結構うるさい。ネタバレになってはいけないので、詳細を論ずるわけにはいかないが、さわり疑問を書いておくと、以下のとおり。
画家「ルーベンス(Pieter Pauwel Rubens)」といえば、ゴシック期の巨匠。代表作である「十字架昇架(1610-11年)」と「十字架降架(1611-14年)」(ローマ・カトリック教会「聖母大聖堂」[ベルギー]の祭壇画)は、美術愛好家なれば、一度は美術書等で見たことがあると思われる。
迫力あるリアリズムに圧倒されるばかりだが、…
秋田麻早子著「絵を見る技術 名画の構造を読み解く」では、「最後の一枚」として、「十字架降架」について「補助線」等を駆使して「言語化」された「名画の構造」が詳細に解説されている。もちろん、一読の価値はあるし、この絵に係る、筆者の「鑑賞方法」について、とやかくいうつもりはない。
だが、疑問符がつくのは、むしろ、本書の最初の方に出てくる、同じくルーベンスの「ステーンの城の見える秋の風景、早朝」(1636年頃)の解説である。
筆者は、最初に説かれる。「絵の主役」=「フォーカルポイント(焦点、絵の中で最も重要な箇所)」の探し方について解説されており、これには、5つのポイントがある、といわれる。ネタバレになるので、5つのポイントは、ここでは書くまい。しかし、この5つのポンイントでは読み解けない場合、「隠れたフォーカルポイント」を見つけ出すポイントは、「リーディングラインです!」と説かれる。「リーディングライン」とは、「重要な箇所に向けて目を誘導する線」のことを指す。
例えば、ラファエロの名画「ガラテアの勝利」(1513年)でいえば、天使の矢が指し示す方向が「リーディングライン」である。
では、ルーベンスの「ステーンの城の見える秋の風景、早朝」(1636年頃)のフォーカルポイントは何処か?
筆者は、宣われる。「リーディングライン」が集中する「左の立木あたり」こそが「造形的にまとまりを持たせるための扇の要(かなめ)のようなもの」である、と。
でも、そうだろうか?
私のリーディングラインは、コチラ
私は、黄色のリーディングラインに囲われたコチラが、「フォーカルポイント」だと思いますが…
赤色の服の御婦人
そして、赤色の服の御婦人に次ぐ、フォーカルポイントは、
遠方の斜め右上方に彎曲した樹木のラインが暗示する、
「猟師・猟犬―巨木の根―獲物の鳥―乳牛と農夫」というのどかな田園風景ではないか。
なお、上掲絵の題名は「ステーンの城の見える秋の風景、早朝」である。
つまり、日が昇ってくる「早朝の」情景の関係で、絵の右上の方が明るく、その反対側(絵の左下)は相対的に暗い。
したがって、第2のフォーカルポイントとして、橙色で囲った4つのポイントの色調は、猟師・猟犬から遠ざかるにつれて、淡い着色・筆致になっている。