北口雅章法律事務所

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安倍内閣による衆議院解散は合憲か?

安倍首相(自民党総裁)は,今月28日,臨時国会を招集後,
「衆議院の解散」(いわゆる「冒頭解散」)に踏み切る方針を打ち出している。
その理由として,三つの争点について,民意を問うことが目的だという。

具体的には,
①消費税増税による税収の使途変更による「全世代」社会保障制度の実現
②北朝鮮への圧力強化路線の継続の当否
③憲法への自衛隊の根拠規定の明記
という三つの争点について,主権者たる「国民の意思」(民意)を問うという。
果たして,このような目的のもとに,衆議院を解散すること
(以下「本件衆議院解散」という。)は合憲であろうか。

 

「衆議院の解散」とは,衆議院議員全員の議員資格を失わせる行為,
つまり,衆議院議員全員のクビを一旦切って総選挙を行うという
内閣(政府)の行政活動である。

国民主権の日本国憲法のもとでは,
衆議院解散制度は,
⑴ 内閣(政府)と議会(衆議院)が対立した場合,
⑵ 重要な政治上の問題に直面した場合において,
主権者たる「国民の意思」(民意)を問うことを目的とする制度である。
したがって,上記⑴⑵のごとく,正当な合理的理由がある場合は,
衆議院が内閣不信任案を可決するなど憲法69条所定の解散事由がある場合に限らず,
内閣(政府)による衆議院解散を是認するのが,通説的な憲法学説である。

ところで,現在の国会内の勢力分布は,自民党の圧倒的な一党支配下にある。
したがって,基本的に,上記⑴のごとき,内閣・議会間の対立構造が欠落している。

では,前記①(「全世代」社会保障制度の実現),②北朝鮮政策の是非,③自衛隊の憲法明文化
は,衆議院を解散させ,国民の信を問うことが不可欠な,前記⑵の「重要な政治上の問題」にあたると言えるであろうか。

まず,前記①(「全世代」社会保障制度の実現)

「『全世代』社会保障制度」などという「中身=実体=得体」が知れず,
国会で全く議論もされていない「新・社会保障制度」など
「国民の信任」を仰ぐような「争点」ではありえない。
消費税率の10%アップによる増収を,子育て支援の社会保障制度の財源に回す,
というのであるが,そもそも,消費税率10%引き揚げ政策自体,
安倍首相が,平成28年6月1日の時点で,「公約に違反して!」,
本年4月の実施予定を平成31年10月まで「2年半もの延期」を正式表明した
ばかりの政策である。
前言を二転三転させるようなレベルの政策について,この時期,
解散・総選挙によって,国民の信を問うような問題ではない。

次に,前記②の北朝鮮政策の是非

北朝鮮の経済制裁強化に異論を唱える政党が存在するのであろうか。
そもそも北朝鮮の核開発・ミサイル実験等の挑発行動に対する対応政策は,
アメリカ・韓国との連携なくしてありえない。また,
北朝鮮の経済制裁強化の効果は,ロシア・中国の政策態度いかんに依存するのであって,
わが国の政策態度が,アメリカの対北朝鮮政策に影響力をもちうるような問題では
ありえない。したがって,解散・総選挙によって,国民の信を問う意味がない。

最後に,③自衛隊の憲法明文化

今頃,何を言っちゃてんだぁ???というレベルの争点である。
唐突にすぎるし,「自衛隊の憲法明文化」によって,我が国の防衛政策が変わる,
ということはありえない。
したがって,次回臨時国会の「冒頭での」解散・総選挙によって,国民の信を問う意味がない。

 

以上,要するに,今回の安倍首相による衆議院解散は,
何の正当性も合理性もない。むしろ,真の目的は,

別のところにあるのではないか。

―野党の混迷状況に乗じて―
「森友・加計の疑惑隠し」=「アベ個人の自己保身」を図ること,

これ以外の目的は,考えにくく,
典型的な,衆議院解散権の逸脱・濫用,すなわち憲法違反である。

しかしながら,遺憾ながら,
現行法制度では,個々の「国民が」当該解散権行使の憲法違反(違憲)を,直接,司法の場に持ち込んで主張する法的手立て(提訴資格)はない(裁判所法3条の「法律上の争訟」に当たらないとされている。)。

「アベ」による衆議院解散によって,議員資格を失った野党議員が,
WADASUに委任さえしてくれれば,
当該解散の違憲(憲法7条,同69条違反)を理由として,
議員資格確認訴訟を提起するところであるが(行政事件訴訟法3条4項),
政府に迎合的な最高裁と,その事務総局の配下にある裁判所は,
どうせ「統治行為論」 (最高裁昭和35年6月8日大法廷判決[苫米地事件])をもちだして,
司法判断を回避するであろう(「統治行為論」とは,国家統治の基本に関する高度な政治性のある行為については,司法審査の対象外とする判例理論です。)。
それでも,「反骨精神」から,アベ政権から嫌がられることを堂々と行うことこそが,
「弁護士」の社会的職責であり,使命であったはずである。

 

もっとも,

翻って考えるならば,

「アベ」が,自己が掲げる前記①②③の政策について,「国民の信を問う」というのであれば,
解散・総選挙が実施されようとしている今こそ,―本来からいえば!!―
国民をなめきった「アベ」政権を「終熄(しゅうそく)」させる(息の根を止める)
「絶好のチャンス」なのである。

しかるに,離合集散を繰り返し,
アベ独裁政権への内部的反発から与党が分裂せず,
アベ独裁政権への外部的反発から野党が結束できないのは,
わが国の民主主義が「未成熟」であることを意味するか,
わが国の「民度の凋落」を意味するであろう。