北口雅章法律事務所

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法律家の職責の根幹は何か?

法律家の職責の根幹は何か?

―法律家とは,ここでは,司法裁判に携わる法曹三者(裁判官・検察官・弁護士)の職責を念頭においているが―,
私は,法曹三者(裁判官・検察官・弁護士)の職責の根本にある
共通項(最大公約数),いうまでもなく,
「真実」と「正義」の追及にあると思う。

こんなことは,言うことも憚れるほどの「自明の理」のはずであるが,
ここ数年,「真実」と「正義」の追及こそが「法律家の使命」である,
という私の確信を裏切るような「日和見主義的な」判決を立て続けに受けたことから,「六法」を改めて紐解き,読み返してみた。

なるほど,「真実」と「正義」の追及こそが,法律家三者の「使命」であることを宣言した明文規定は,遺憾ながら存在しない。

憲法76条2項は,「すべて裁判官は,その良心に従い独立してその職権を行い,この憲法及び法律にのみ拘束される。」と謳っているが,憲法上は,「真実」も「正義」も謳われていないし,裁判所法上も「裁判官」の職責に関する規定をもっていない。また,検察官については,「公益の代表者」として,「裁判所に法の正当な適用を請求」すべき職務を担う者という位置づけが与えられているが(検察庁法4条),「真実」,「正義」という文言は示されていない。

 もっとも,弁護士は,弁護士法上「社会正義を実現することを使命とする」と明定されており(1条),刑事訴訟法上も,「事案の真相(=真実)を明らかに」することが刑事訴訟の目的である旨定められており(1条),かつ,最高裁は,原審の認定が「著しく正義に反する」と認めるときは,原判決を破棄することができる(刑訴法411条)。逆にいえば,正義に反していても,「著しく」反する程度のものでなければ,原判決を維持するといった「手ぬるさ」「いいかげんさ」も許容されている。

 しかしながら,民事訴訟法上では,裁判所と訴訟当事者(代理人弁護士も含む。)の責務として,「公正」,「信義」,「誠実」という言葉は出てきても(2条),「真実(真相)」,「正義」という言葉は見当たらない。

それでも,私は言いたい。

裁判所の「真実」に反する事実認定は,「正義に反する」ものであり,
裁判所の「誤判」は,敗訴した当事者にとっては,「人権侵害」である,と。

中村治朗元最高裁判事曰く,
「真実の探求は,いわば人間の本能であり,また真実を踏まえない正義は,真に正義の名に値しない。」(「裁判の世界を生きて」判例時報社438頁)