北口雅章法律事務所

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何故,鳥取県警が「傷口写真」の公表に「激怒」するのか?

日馬富士の暴行(傷害)事件で,元小結・旭鷲山が,貴ノ岩の傷害部分が撮影された写真(以下「本件傷口写真」という。)をネット上で公開したことについて,鳥取県警と相撲協会が「激怒」したとのニュースが流れている。

 

 

「相撲協会が」怒る気持ちは,わからないではない。
相撲協会としては,なるべく事を荒立てないで,できれば内々で処理したかったはずであるし,貴乃花が貴ノ岩に被害届を鳥取県警に対し提出させた時点でも,できる限り穏便な形で不祥事の「幕引き」を図りたかったことは自明のことであろう。「日馬富士の名誉」のためにも,「相撲協会の面目」のためにも,貴ノ岩の痛々しくも「生々しい傷口」は露見させないで「内密に」して欲しかったに決まっている。本件傷口写真が日馬富士の引退決意に大きく寄与したことも客観的にみて明らかであろう。

これに対し,「鳥取県警が」本件傷口写真の暴露に「激怒」するのは何故であろうか?

私は,本ブログ読者の皆さんに,この理由について,想像をたくましくして,
よくよく考えていただきたいと願うものである。

まず,大前提,本件傷口写真は,本当に貴ノ岩のものであろうか?
という疑問をもたれるかもしれない「慎重な」読者のために解説しておくと,
本件傷口写真は,ほぼ間違いなく貴ノ岩のものであろう。

何故かといえば,本件傷口写真には傷口に医療用ホチキスが撮されているので,
このことだけでも「事件の一面」を忠実に再現しているのであって,
医学の知識・経験のない関取が容易に入手できる性格の写真ではなく
(同種写真をネットからパクると,立ち所に警察に摘発される。),
貴ノ岩の関係者というより本人から写メールで入手したものと考えるのが合理的であり,
軽々しく「直情径行(ちょくじょうけいこう)」型の行動をとる傾向にある
旧力士が激情にかられて公表・投稿に踏み切った経緯からみて,
貴ノ岩の傷口を撮したものであることは自明であるし,
そもそも,貴ノ岩本人の傷口の写真でなければ,鳥取県警が怒る理由もないことになる
(ちなみに,本件傷口写真の公表は,貴ノ岩のプライバシーを侵害する可能性があるが,
おそらくその公表は,必ずしも貴ノ岩=貴乃花の意思に反するものではなく,
黙示に承諾していた可能性もある。)

さて,本件傷口写真が公表されたことで,鳥取県警が激怒したのは,
いうまでもなく「捜査情報」であるからである。

では,上記「捜査情報」が公表された場合に鳥取警察が怒るのは何故であろうか?

単に「捜査情報だから」という理由だけから,鳥取県警が,その公表に「激怒」するならば,
白鵬が早々に「ビール瓶は使われていない」などという「捜査情報」をマスコミで
たれ流したことの方が,よっぽど重大な捜査妨害であって,「激怒」するはずである。
なぜなら,もし「仮に」そのような白鵬の捜査情報のリークが虚偽であった場合,
他の下っ端の関取は「横綱があのように言っているのであるから,
自分もそれに合わせなければならない。横綱の意に反することを言ってしまうと,
あとで何をされるかわからないからな。貴ノ岩のように。」と考えるに至る,
といった暗黙の口裏合わせの事態(証拠隠滅の唱道)も当然に予想されるからである。

ところが,鳥取県警も,鳥取地検も,「白鵬による」上記捜査情報の公表については,
全く「激怒」「憤懣」の情を全く示していない。何故であろうか?

一般論として,本件傷口写真の如き「捜査情報」を私人が勝手に公表した場合において,
警察が「激怒」する理由は,そのような捜査情報の漏洩が
捜査活動の妨害・支障となるからである。

では,本件の場合,元小結・旭鷲山が,貴ノ岩の傷害部分が撮影された本件傷口写真をネット上で公開したことについて,鳥取県警の捜査は妨害された,あるいは支障をきたした,といえるであろうか。

裏からいえば,捜査妨害の事態が生ずるためには,
本件傷口写真を「捜査秘密に」した状態で捜査を進めること自体に
捜査目的・捜査手段との関係で合理性・合目的性・メリットがあることが前提となる。

ところで,本件傷口写真は,貴ノ岩の被害状況を示す動かし難い客観的事実を
証明する手段ではあるが,
主犯(日馬富士)及びその関係者によって,当該客観的事実が隠蔽される可能性
は皆無である。おそらく鳥取県警としては,貴ノ岩から被害届が提出された時点で,
その場で(警察署内で),直ちに貴ノ岩の傷口の状態の写真撮影(証拠保全)が
行われ,かつ,捜査報告書が作成される(べき)性格の重要証拠である。
そして,鳥取県警,あるいはその捜査を一般的に指揮する鳥取地検(捜査主任)が,
本気で捜査をするつもりであれば,
まずは,貴ノ岩の傷口の重篤度から「ビール瓶を凶器とした暴行・傷害」を疑い,
かつ,白鵬の関与,具体的には,傷害罪(刑法204条)の現場共謀(60条),教唆(61条),
少なくとも現場助勢罪(同206条)の嫌疑をもつはずである。

(もともと日馬富士には,貴ノ岩に対し,何の恨み辛みもなく,日馬富士の行動は,一次会への参加も含め,全て白鵬の意を受けての行動とみて矛盾はないからである。)

このような嫌疑のもとで犯罪捜査をすすめるにあたっては,
いきなり白鵬のような「本丸」を呼び出すのではなく,
「白鵬以外の」関係者「全員」を一斉に警察署,否,慎重を期して検察庁に呼出し,
警察署で撮影した傷口の写真を示しながら,
「君ねえ,こんな傷口が,カラオケのリモコンで1回殴っただけでできる
などいったウソがまかりとおるとでも思っているのかい?」などと,
なだめるように,冷徹に突き詰めていくと,
少なく1人は,貴ノ岩の供述内容と「ピタッと一致する」暴行態様,暴行状況を
正直にゲロした可能性が高い。
そして,ジワリジワリと周囲(鶴竜を含む)の供述等から「言い逃れできない」程度まで
証拠固めしてから,おもむろに,
白鵬と日馬富士と呼出し,正直に全てをゲロするまで,つまり,貴ノ岩の供述,
他の関係者の供述と本件傷口写真及び医学所見と整合するまで,徹底的にネチネチと
取調べを実施する。
少なくとも,私が捜査主任検事であれば,そのような捜査手法をとり,
「東京地検特捜部長のイス」を狙う。
このような捜査方法を採用した場合,本件傷口写真が事件関係者に事前に知られようが,
とりたてて捜査遂行に支障が生ずるとは思えない。

ところが,本件では,鳥取県警も,鳥取地検の捜査主任も,
上記のような捜査手法をとっていない!!

「ビール瓶を使っていない」と公言して憚(はばか)らない白鵬について,
最初に僅か数時間程度,「被疑者調べ」ではなく(即ち,黙秘権の告知をせず!),
「参考人」としての取調べだけで,自宅に帰している。
この分では,日馬富士に対する検事調べさえも,やる気がなさそうだ。
どうやら,初めから,鳥取県警も,鳥取地検も,
「日馬富士は,いずれ『横綱引退』になるだろうし,
 このことで『社会的制裁』は十分に受けたことになるので,
 可哀想だし,日蒙間の国際問題もあるので,刑事事件としては,穏便にしてやろう。」
といった態度がミエミエではないか。

ってことは,元小結・旭鷲山が,貴ノ岩の本件傷口写真をネット上で公開したことで,
格別,本件捜査に支障を生じないはずであるし,
もし捜査になにがしかの影響があるとしても,
白鵬(と日馬富士)による「捜査情報の公言」を野放しにしている鳥取県警に,
元小結・旭鷲山の写真公開行為に「激怒」する資格などない!!

では,それにもかかわらわず,元小結・旭鷲山による,
貴ノ岩の本件傷口写真のネット公開について,
鳥取県警が「激怒」したとすれば,それは,何故か??

本件傷口写真の異常な重篤・重大な被害を目の当たりにした
良識ある「国民」から,何故,鳥取県警は,
「ビール瓶による傷害」を強く疑い,
かつ,現場にいた白鵬の関与を強く疑い,
もっと真面目に,徹底的に捜査しないのか!!??
という形で,
「鳥取県警の捜査の怠慢」に対する
社会的非難が巻き起こる危険性を生じさせるから,
という理由「以外の理由」がもしあれば,教えてもらいたい。

<追記とお詫び> 

昨晩(12.7),法医学者・医学者の先生方との忘年会の際,アノ傷口は,「カラオケのリモコン」の側面で殴打したことで出来た傷口とみて矛盾がなく,「ビール瓶」であれば,創の周囲にもっと挫滅創ができるのではないか,とのご教示をいただきましたので,本ブログは若干修正の必要がありそうです。ここに不正確な印象をもとに,ブログ記事を書き込んでしまったことにつき,取り急ぎお詫び申しあげます。

(追記)このブログを読んでくれた方へ
        次のブログも是非読んでくださいね。
     ▼「モンゴルの国宝(こくほう)」は,「白鵬」ならぬ「黒鵬」か?―前編―
           https://www.kitaguchilaw.jp/blog/?p=1274
     ▼「モンゴルの国宝(こくほう)」は,「白鵬」ならぬ「黒鵬」か?―後編―
              https://www.kitaguchilaw.jp/blog/?p=1269