北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

「日光太郎杉事件」のこと

大学法学部の「行政法」の講義で学ぶこと は,根本的には,「法治主義の原理」とは何か,
具体的には,如何にして行政庁(行政機関)による公権力の不当な行使をコントロールし,その違法を排除し,如何にして一般市民の自由を守るか という観点からの法規制・法解釈のあるべき姿である。
このような行政法理論を学ぶ過程で,必ず取りあげられ,行政法の教科書にも出てくる,
著名な裁判例が「日光太郎杉事件」の東京高裁判決(昭和48年7月13日)である。

「日光太郎杉事件」というのは,栃木県の日光東照宮(徳川家康を神格化した東照大権現を祀る)には,「太郎杉」と呼ばれる高度の文化的価値のある古木が存在するが,当時の建設大臣が道路拡幅のため,土地収用法20条を適用して,その「太郎杉」の伐採計画を含む土地収用裁決を行ったところ,この計画に反発した地元住民がその裁決の違法を主張して起こした行政訴訟である。
この訴訟で,東京高裁は,建設大臣の土地収用裁決について,裁量権行使の方法・過程に違法があるという行政裁量をコントロールする新たな法的枠組を構築・判示し,当該土地収用裁決を取り消した。
曰く「(行政裁量の行使方法について)本来最も重視すべき諸要素・諸価値を不当・安易に軽視し,その結果当然尽くすべき考慮を尽くさず,又は本来考慮に容れるべきでない事項を考慮に容れもしくは本来過大に評価すべきでない事項を過重に評価」した場合には,「裁量判断の方法ないしその過程に誤りがあるものとして,違法となる」, 「高度の文化的価値を持つ自然環境の保全は、国民が健康で文化的な生活を営む条件にかかわるものとして、行政の上においても最大限に尊重されるべきものであるから、これを道路建設のため収用するには、右の要請を越える必要性がなければならない」という。

現在の裁判官の圧倒的多数が,国に対する行政訴訟で,-原発訴訟といい,辺野古訴訟といい-,国の指定代理人から「行政裁量」の抗弁がでてきた途端に,「思考停止」してしまい,私人の側を負けさせるといった嘆かわしい傾向・現実があること(その例外が,「絶滅危惧種」と呼ばれる藤山雅行裁判官等)を思うにつき,学生時代に学んだ「日光太郎杉事件」のことがつくづく思い出されるのである。

なんで,こんなことをブログに書く気になったか?

というと,実は,目下,話題の「渦中」にある貴乃花親方が,
新潮社を被告として訴えた裁判で一部勝訴したときに弁護団長となった弁護士が,
いったいどなただったか?と気になって調べたところ,
何と!!,日光太郎杉事件に関与した裁判官だったわけさ。

(弁護士ドットコムより)