北口雅章法律事務所

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素晴らしい! 安保法制訴訟における杉原・東京高裁判決

東京高裁杉原則彦裁判長が,安保法制をめぐって国側の主張に「迎合」した1審判決を取り消して,東京地裁に差し戻した。

すなわち,現職の自衛官が,国の安保関連法による集団的自衛権の行使は憲法違反であることを理由に,裁判所に対し,「防衛出動」命令に従う義務がないことの確認(いわゆる「良心的兵役拒否」)を求めた行政訴訟において,原審・東京地裁が,「現時点で,出動命令が出る具体的な可能性がない」といった「おめでたい」判断を理由に訴訟要件を欠くとして,実体審理に踏み込まなかった(却下判決)のに対し,杉原裁判長らは,「すべての現職自衛官が『防衛出動』命令の対象になる可能性が非常に高い」との「良識的な」判断を示し,当該「防衛出動」命令の合憲性審理を命ずるべく,東京地裁に,訴訟を差し戻す旨の判決を下した。

素晴らしい!!

このような頭脳明晰で,気骨あふれる「良識派」裁判官は,遺憾ながら,「絶滅危惧種」に属する。もとより,杉原裁判長の正当な判断は尊敬に値し,その公正さは,名古屋高裁の藤山雅行裁判官と「双璧」をなす,

 

 私が,はじめて「杉原則彦裁判官」の存在・判断に瞠目(どうもく)したのは,
周知の沖縄返還密約訴訟だ。この訴訟で,杉原裁判長は,国に対し,日米政府間で,沖縄返還の交渉過程で取り交わされた「密約」(日本が米国に対し,国民に隠して,協定違反の財政負担を負う旨の合意)を示す行政文書について,情報公開法4条1項に基づいて,原告ら(ジャーナリストや学者)への開示を義務付ける,といった画期的な判決をくだしたのだ(東京地裁平成22年4月9日判決 http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/994/080994_hanrei.pdf )。この新聞記事を読んだときは,感涙(かんるい)にむせぶ原告らの面々の姿が想像された。

 このような画期的な判決が出ると,ミーハーな私の興味は,俄然,「判決内容」から「裁判官の人物像」に移る。杉原裁判官,ってどんな方?

 そこで,何をどう調べるか?といえば,当然,「経歴」と「顔」を調べることになる。裁判官の「経歴」は,新日本法規出版がネットで公開している裁判官検索(法律情報サービス)を使って調べられる。なるほど,最高裁調査官,しかも「上席」調査官の経歴があり,能力的には,トップレベルだ。「顔」の方は,わざわざ「弁護士会の資料室」に出向き,そこに置いてある「司法大観」で調べる(私の場合,実は,「秘密のルート」で,「司法大観」のバックナンバーの殆どを事務所に揃えてある。もっとも,平成19年以降,「司法大観」の改訂がなされていないと思われる。)。

 私の場合,名古屋高裁管内を主たる活動エリアとしてる関係で,東京地裁・東京高裁の事件を扱うことは非常に少ないため,残念ながら,杉原裁判長に判決を仰いだ経験はないし,法廷でみかけたこともない。

 が,実は,杉原判事の横顔を見たことはある。あれは,私の司法研修時代,われわれのクラスの刑事裁判の教官だった安井久治裁判官(元福岡高裁長官)が平成27年7月19日に急逝されたことから,同年10月24日,法曹会館で開催された安井先生との「お別れの会」でのことだった。私の「すぐ前で」焼香を終えた中年男性が,祭壇の横に佇立していた安井婦人に向かって,「杉原です。」と言って挨拶された。横からのぞき見ると,前掲「司法大観の顔」が御座(おわ)しましていたのであった。

 

さて,今般の前記・杉原判決は,今後,どうなるであろうか。

個別事件における訴訟要件の判断は,「客観的に法令の解釈に関する重要な事項」とは言い難い。したがって,おそらく杉原判決に対し,国は上告受理申立てはしないであろう。仮にそれをしても最高裁は不受理決定を出さざるを得ないであろう。

そうなると,差戻審で,東京地裁は,安保関連法の合憲性を正面から判断せざるを得ないことになるのではないか。自衛のために必要最小限の武力行使は許されるとしても,同盟国の後方支援の目的は「自衛目的」とは言い難いし,「戦場」に出向けば,「戦闘」行為は避けられまい。が,それでも,自衛隊を合憲とみる限り,裁判官たちは,何らかの「屁理屈」を持ち出して,安保関連法の合憲的な解釈を導くのであろう。仮に,安保関連法が憲法違反だという気骨のある裁判官に当たったと仮定しても,多くの東京高裁判事は,原審を破棄して,合憲判断を導くのではないか。そして,本件が最高裁に係属する頃には,「アベ」の公約した憲法改正期限(2020年)はとうに過ぎているであろから,その頃には,憲法9条も改正され,安保関連法も当然に合憲だという判断がくだるのであろうか。

 いずれにしても,「司法改革」の結果,司法試験のレベルが全体的に著しく低下したことから,昨今の,裁判所の「劣化」も甚だしく(特に専門訴訟),本件が,最高裁に行き着く頃には,気骨あふれる「良識派」裁判官は,すでに「絶滅」してしまっているのではないか,と危惧される。

 

*追記

 杉原・東京高裁判決に対し,国側が最高裁に上告受理申立しましたね。予想外でした。

 国側(法務省訟務局+防衛省)は,「アベ」から最高裁に向けて,無言の圧力をかけるのか!?