北口雅章法律事務所

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トランスジェンダー・トイレ事件の最高裁判決に思う

最高裁判事ら(第三小法廷)の性的マイノリティ(トランスジェンダー)への配慮・理解は見上げたものだ。

①(「多様性を尊重する共生社会の実現」に向けて)「自らの性自認に基づいて社会生活を送る利益」は「できる限り尊重」すべき(宇賀判事)、
②「自認する性別に即して社会生活を送ること」は「重要な法益」(長嶺判事)、
③④「個人がその真に自認する性別に即した社会生活が送ることができること」は「人として生きていく上で不可欠ともいうべき重要な法益」(渡邉判事=林判事)、
⑤「自認する性にふさわしい扱いを求めること」は「ごく自然かつ切実な欲求」だから「十分に配慮し、真摯に調整を尽くすべき」(今崎判事)

という、各判事らの麗しい理想・理念のもと、
最高裁第三小法廷は、「裁判官全員一致の意見」で、
MtF(Male to Female)のトランスジェンダー(生物学的な性別は男性であるが、自認する性別は女性)」(以下「T」という。)に対し、女性トイレの使用の自由を認めるべく、従前、Tの執務階から2階以上離れた階の女性トイレのみ使用を許容してきた、経済産業省の処遇について、これを容認した人事院の判定を違法と判断した。

ちなみに、
本件の場合、Tは、「(健康上の理由から)性別適合手術を受けてない」とのことであるから、泌尿器は男性の形状・機能をもつはずである。

となれば、「ちょっと、Tさん、あなた本当は、男性トイレの方が使いやすいんじゃないの?」と声掛けすると、彼、否、彼女から「それは、セクハラです。」といって、訴えられるのであろうか(「実は、女性トイレの中では、立って用を足しているのではないか。」といえば、レッドラインを越えるのであろうが。)。

経済産業省は、Tが、これから女性の服装で勤務を開始するという時に、Tの同意のもと、Tの性同一性障害についての部署の職員らに対し説明会を開き、その際、Tの退席後、Tの女性トイレ使用について意見を求めたところ、「数名の女性職員がその態度から違和感を抱いているように見えた。」という。
だが、最高裁は、この点について、「担当職員から数名の女性職員が違和感を抱いているように見えたにとどまり、明確に異を唱える職員がいたとはうかがわれない。」と認定し、もって、Tの女性トイレの使用を認める方向に作用する事情として挙げている。この点、女性職員らが、異議ある旨の意見を述べなかった理由について、渡邉判事が、あれこれ可能性を分析している。だが、はたしてそうか?
 国の指定代理人らは、第1審で負けた時点で、控訴するにあたって、何故、経済産業省の女性職員全員に対し「匿名」のアンケート調査を、各階ごとに実施しなかったのだろうか?(男性職員が立ち会っているか否か、匿名か顕名かで、対応が違ってくるのではないか?) 圧倒的多数の女性職員が、Tの女性トイレの使用について消極意見であれば、そのアンケート結果を証拠として裁判所に提出することで時期尚早を主張できたであろうし、逆に、特段の反対意見がなければ、請求を認諾してもよかったのではないか。男性トイレの場合と異なり、女性トイレは全て個室であろうから、Tに女性トイレの使用を認めたとしても、弊害が少ないように思われるからだ。