北口雅章法律事務所

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訴訟上の信義則

民法の大原則に「信義誠実の原則」,略して「信義則」という原則がある。
これは,民法1条2項で,「権利の行使及び義務の履行は,信義に従い誠実に行わなければならならない。」と規定されているところのもので,民法の教科書では,「信義誠実」とは,当事者各人が「社会共同生活の一員として,互に相手の信頼を裏切らないように,誠意をもって行動することである」と説明されている(我妻榮著「新訂・民法総則」34頁)。

そして,同趣旨の原則は,民事訴訟法でも規定されている。すなわち,「裁判所は,民事訴訟が公正かつ迅速に行われるように努め,当事者は,信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない。」(法2条)。同条項の文言上,信義則の適用対象(主体・主語)は,「当事者は」とあるが,裁判所とて,信義則の適用対象というべきであろう。

とはいえ,いかなる行為準則をもって「信義則」といい,如何なる所為をもって「信義則違反」というのかは,個別具体的な事情によるであろうし,各事情についても,裁判官の評価に依存するため,かなりアドホック(ad hoc)な概念ではある。

さて,

今日,私が手掛けてきたある民事裁判が,控訴審(高等裁判所)で結審となり,判決言渡日が指定された。

第1審では,当方(=原告)が95%負けていた。
なぜ,「95%負けた」といえるか,といえば,
裁判所は,当方が中核に据えた主張(被告の不法行為)を認めず,
極々付随的な契約違反しか認めなかったために,
請求額と対比して認容額がごく僅かであったし,
原判決主文では,「訴訟費用は,これを20分し,その19を原告の負担」すべきもの,
つまり,訴訟費用(印紙代)の95%を当方で負担せよ,とされていたからだ。

ところが,

当方が,控訴し,詳細な控訴理由書(第1審の判決に対する不服の理由を書いた書面)を提出したところ,
控訴審では,主任裁判官から心証開示があり,
「いまの状態では,控訴審裁判所としては,原審の判断を維持することは難しい,と考えています。」
 とのことで,和解勧告の打診があった。

ひょっとして,逆転?

途端に,被控訴人(被告)から,当方の控訴理由に対し,いろいろ反論する旨の書面が追加された。

当方とて,もちろん,いろいろ再反論し,徹底的に争っている。

勿論,裁判所の和解勧告の打診については断固拒否する方針をとり,和解は固辞した。

さて,今日の最終弁論準備期日において,裁判所(主任裁判官)から,
「せがむように」「争点を××××にしぼって頂戴。」と打診されたが,これには応じることにした。

「争点を××××」にしぼらないと,
裁判所としては,当方が主張してきた争点を「全部」判断せざるを得ないので,相当な負担になり,裁判官から恨まれることになる。

裁判所の指導に応じないでおいて,裁判官の気分を害する,といったことは控え,裁判所の希望に応ずれば,経験的・常識的には,
「逆転」になるハズだ,というのが私の「読み」だ。

争点の大半について,攻撃的に主張する側の当事者に,その主張(攻撃方法)を放棄・撤回させておいて,その当事者を負けさせては,

やはり,「裁判所が」「訴訟上の信義則違反」になる,というべきであろう。

そう信じて,裁判所のオファー(懇請・切望)に応じたが・・・。

さてどうなりますことやら。 

裁判所の夏季休廷後の「お楽しみ」が一つ増えた。

 

 

※本ブログの《続編》は,

コチラ → 「訴訟上の信義則」は守られたか?
       https://www.kitaguchilaw.jp/blog/?p=4706

 

※本ブログの訴訟の判決は,「労働判例」に掲載されました。