北口雅章法律事務所

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綿引万里子・新長官(名古屋高裁)の「裁判員制度への理解」について

名古屋高裁の新長官に着任された綿引万里子長官の
中日新聞社への訪問記事が中日新聞(9月14日朝刊)に出ていた。

「裁判員制度への理解向上に意欲」だと?

くだらない!!

「裁判員制度への理解向上に意欲」というのであれば,
裁判員制度について,社会的な意義が著しく乏しく,
 被告人の利益,特に法律専門家である裁判官による
 裁判を受ける権利を著しく阻害する違憲・不当な制度であることの
 理解向上に意欲を示してもらいたいものだ。
 最高裁長官を頂点とする,司法の権力機構・官僚機構の「歯車」的存在では,
 無理であろうが。

「今は(証人の)証言を法廷で直接聞きましょうという傾向。
 刑事裁判が変わったんだと思う。」(前掲・新聞記事から)

とのご認識は正しい。
しかし,「(証人の)証言を法廷で直接聞きましょう」というのであれば,
何も,「素人の裁判員」を関与させずに,
「餅は餅屋」,
「プロの裁判官」が「(証人の)証言を法廷で直接」聞けばいいだけの話だ。

「(裁判員)制度に関する出前講義」についても,
「経験者」素人の元裁判員!)に行ってもらうだと?

1回経験しただけで,刑事裁判の何がわかるというのか?!!

 仕事・私事が忙しかったり,刑事裁判以外のことに興味・関心がある方は,裁判員裁判への参加を敬遠するであろうし,刑事裁判は,プロに任せ,素人が死刑か無期懲役かといった重い事件に関与すべきではない,という「常識的な」信条の持ち主は,裁判員裁判への参加を拒否するであろう(実は,裁判員制度がある限り,こういう方にこそ,裁判員になっていただきたいものだ。)。しかしながら,現実には,もっぱら刑事裁判に関心がある方,自信過剰傾向のある方だけが積極的に参加するであろうから,裁判員裁判の参加経験者は,自らが浪費した「時間が無駄だった。」とか,「時間をかけて,くだらない審理・審議につきあわされた。」などとは誰もいわないだろう。
 しかしながら,例えば,殺人事件であれば,凄惨な殺害場面,遺体の写真を
素人の裁判員にみせることはないであろう。法医学鑑定なども,医学を学びつつ,鑑定書を繰り返し精読することによって,はじめてその意味を正確に理解できることも少なくない。
 かつての「プロの刑事弁護人」の立場から言わせてもらえば,
裁判員裁判なんてのは,
所詮,二次的に「演出」「変形」された「まがい物」を証拠とした
「限られた時間内での」「茶番」「儀式」「ままごと」ではないのか。
裁判員裁判を1回経験しただけで,「本来の」刑事裁判の「あるべき姿」について,
分かった気になってもらいたくなくし,
それを分かった気になって語ってもらいたくないと思う。

綿引長官が,優秀な裁判官であることは重々承知している。
最高裁の行政事件部門の上席調査官等を含む経歴や,
名古屋高裁長官に就任早々,「地元への影響力の強い」中日新聞を自ら訪ね,
最高裁長官に「ウケがいい」「裁判員制度の普及ネタ」を,
「ちゃっかり」アピールしていること等からも,
「ソツのない」有能さは窺いしれる。

しかしながら,綿引長官が,真に「日本司法の将来のため」を思うのであれば,
即刻,裁判員制度において「選任手続きへの出席率が低下」するなど,
裁判員制度の対する国民の批判が高まっていることを最高裁長官・同事務総長に訴え,
かつ,行政事件に係る専門性を活かして,
行政事件関連訴訟の質・量の劣化・沈滞化の実情
(まともな行政事件の事件数が著しく減少し,
 行政事件がもっぱら出入国管理・難民認定関係の訴訟に限局しつつある実情)
の方こそを憂え,その原因を精査してもらいたいものだ。
(要するに,収入に結びつかない行政事件などは,敬遠される傾向にあるのではないか?,何故そうなったのか?といった原因論・社会背景等に関心をもってもらいたいものだ。)