北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

厚生労働省の役人どもに,「百羽の鶴」を読んでもらいたい

花岡大学「百羽の鶴」を読み返し,
〈大人の童話〉として,翻案してみたくなった。
(原文は,ほとんど平仮名です。)

 

冷たい月の夜で,煌々と明るい,夜更けの広大な空でした。
そこへ,北方から,真っ白な羽を,弱々しく鳴らしながら,百羽の鶴が飛んできました。百羽の鶴は,皆,同じ速さで,白い羽を弱々しく動かしていました。首筋をのばして,ゆっくりゆっくりと,飛んでいるのは,疲労が蓄積しているからでした。なにせ北の果ての,寂しい氷の国から,昼も夜も休みなしに,飛び続けてきたのです。だが,ここまで来れば,行き先はもうすぐでした。楽しんで,待ちに待った綺麗な湖の畔へ,着くことができるのです。

「下界をご覧!,山脈だよ。」
と,先頭の大きな鶴が,嬉しそうに言いました。
皆は,一斉に下を見ました。黒々と,一面の大森林です。雪を被った高い峯だけが,月の光を跳ね返して,鋼のように光っていました。
「もう,あと一息だ。みんな,頑張ろう!!」
百羽の鶴は,目を輝かせながら,疲れた羽に力を込めて,痺れるほど冷たい,夜の空気を叩きました。それで,飛び方は,今までよりも,少しだけ速くなりました。まもなく目標地点に到達するからです。残りの力を振り絞って,ちょっとでも早く湖へ着きたいのでした。

するとその時,群れの一番後ろを飛んでいた,小さな子どもの鶴が,下へ下へと落ち始めました。小鶴は,皆に内緒にしていましたが,実は,病気だったのです。ここまで群れに付いてくるのも,やっとでした。皆の速度が少しばかり速くなったので,小鶴は,死に物狂いで付いていこうとしました。それが仇となりました。瞬時に羽が痙攣を起こして動きが止まってしまい,下の方へと吸い込まれるように落下していきました。だが,小鶴は,皆に助けを求めようとは思いませんでした。もうすぐだ!,と喜んでいる皆の歓喜の気分を壊したくなかったからです。小さな鶴は,独り黙ったまま落下していきながら,やがて気を失ってしまいました。

その時です。小鶴の直前を飛んでいた鶴が,小鶴の落下に気づくと,鋭く鳴きました。すると,忽(たちま)ち,大変なことが起こりました。前を飛んでいた九十九羽の鶴が,一斉にすうっと下へ落ち始めたのです。小鶴よりも,数倍の速度で,月の光を貫いて飛ぶ銀色の矢の如くに,素早く降下していきました。そして,落下中の小鶴を追い抜くと,黒々と続く大森林の真上辺りで,九十九羽の鶴は,さっと羽を組んで,一枚の大きな白い羽毛布団となったのでした。すばらしい九十九羽の鶴の曲芸は,見事羽毛布団の上に,小鶴をしっかりと受け止めると,そのまま空へ,舞い上がりました。

そして,気を失った小鶴を長い脚で抱えた先頭の鶴は,何事もなかったように,皆に言いました。
「さあ,元のように並んで飛んで行こう。もうすぐだ。頑張れよ。」
煌々と明るい,夜更けの空を,百羽の鶴は,真っ白な羽を揃えて,弱々しくもたくましく,空の彼方へ,次第に小さく消えていきました。

 

<出典>
「もう一度読みたい 教科書の泣ける名作」(学研)所収の
花岡大学(1909-1988)「百羽(ひゃっぱ)のツル」を
我流にアレンジしてみた。

 

昔は,この童話が,小学校3年生の教科書に出ていた。
教員への指導要綱では,
「助けを求めようとしなかった小鶴の心情を想像させ,
九九羽のツルの心情と行動について,感想を発表させる」
旨のことが求められたいたようだ。
今の世の中こそ,「One for all, All for one」
といった道徳(美徳)教育が求められているように思う。

「障害者福祉」を扱う,今の厚生労働省のお役人の面々の中に,
小さいとき,この花岡大学の「百羽のツル」を読んで感動した!
という経験をもった方が,何人いるであろうか?
「受験秀才」に徹した「アホのカタマリ(組織)」
という感じがしないでもないが・・・