北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

林道晴判事(最高裁)の論文を拝読すると,・・・

「抜本的な紛争解決」への熱意が伝わってきて,
その迫力と緻密な論法には敬服する。

曰く

「裁判所としては,紛争の全体像や社会的な実態の把握に努めた上で,紛争の解決のために当事者との議論を尽くしておいた方がよい事項(法的観点が関係する事項が問題なることが多いと思われる)でありながら,当事者が明示的な主張立証をしていないために,議論が尽くされてないものがあることが判明した場合には,積極的釈明の手法を用いて,裁判所の問題意識を当事者に伝えて,争点整理期日や口頭弁論期日で議論を尽くすことに努めるべきであると考えられる。」

「裁判所にこのような抜本的な紛争解決をにらんだ積極的釈明を求めることは,過度にわたる釈明として批判されることも考えられないではない。また,…当事者の自己責任が訴訟の基本であり(当事者主義),裁判所が手を貸して弁護士の能力不足を補うことにより,健全な競争で訴訟活動をしっかりできる弁護士の育成を阻害するおそれがあるとの批判にも配慮する必要があろう。しかしながら,…抜本的な紛争解決のための積極的釈明は,裁判所の釈明に基づき,当事者との間で,徹底した議論がされることが大前提であり,そうした議論がなければ,当事者の納得や関係者の理解は得られず,抜本的な紛争解決にはつながらないのである。そもそも,釈明事項に到達するために,紛争の背景事情,紛争に至る経緯,訴訟の結論が社会や関係者に与える影響などを検討し,紛争の全体像や社会的な実態を把握する必要があり,その検討材料を得るために当事者の協力が不可欠であることから,審理の経過に反する形で,いきなり釈明がされるという自体は考えにくい。抜本的な紛争解決に当該釈明が必要であるとの考えに至った場合には,押し付けとならないように当事者に問いかけ,考え得る法的観点も含めてしっかり議論するというプロセスが重要なのであり,…」。

(以上『抜本的な紛争解決と釈明』より)

「裁判所には,対審審理が有効な事件を選択して最も実を挙げうる審理方式を選択するとともに,当事者双方が期日で十分な主張・立証をできるように配慮する責務を負ってることになる。したがって,対審審理の規定がない決定事件についても,相手方当事者がいて争訟性があり紛争性の高い事件で,対審審理が適切で迅速な解決に効果を発揮することが客観的に認められるものについては,原則として対審審理の運用を活用すべきことになろう。以上のような意味で,今後の民事手続の決定手続では,裁判所が対審審理にふさわしい事件を選択して,対審審理の規定がある事件はもちろん,そうした規定がない事件についても,当事者双方立会いの審尋ないし審問期日ないしは任意的口頭弁論期日を設定し,当事者間の活発な議論を通じて争点整理や事案の解明を図っていくことが期待されているといえる。」

(以上『決定手続における対審審理による手続保障』より)