北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

人生は苦難の連続?,「弁護士」はタフでないと・・・

ご存知,レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説に登場する,
フィリップ・マーロウ(Philip Marlowe)の台詞

「タフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない」
(生島治郎訳 「If I wasn’t hard, I wouldn’t be alive.
  If I couldn’t ever be gentle, I wouldn’t deserve to be alive.」
 『傷痕の街』(講談社、1964年3月))

これぞ,われわれ「弁護士に対し」突き付けられているような台詞。

それにしても,人生山あり谷あり,
他人事とはいえ,様々な人々の悩み,リスク・苦難に晒(さら)され,
一緒に悩み苦しむのが,弁護士の職業。

それにしても,

升田純先生!(中央大学法科大学院教授・元東京高等裁判所判事)
升田先生!!,アナタの,判例時報に連載中の労作「現代型取引をめぐる裁判例」は,
われわれ弁護士にとっては,重要な参考資料ではあるのですが,

このシリーズの中で,最近連載が始まった

「家族間の取引・責任をめぐる裁判例」の前置き記事は,

読むだけで,身につまされるし,ため息がでてくるし,
私としては,非常に辛いのですが・・・。

 

われわれ庶民,周囲は,み~んな,辛い思いをしているのだ!!!。

(脳天気でいられるのは,アベ総理負債,じゃなかったアベ総理夫妻
 と,お金持ちの麻生太郎くん,くらいではないのか。)

 

■(「親離れできない」子どものリスク)

「現代社会においては,過去と比べて,成人に達した子どもの親離れの時期が著しく遅れる傾向が見られるだけでなく,ニート等の現象も見られるようになり,親離れしない子どもも多数見かけるようになっている」《判例時報2338号137頁》

■(子どもが「就職」に失敗するリスク)

(「就職氷河期と形容される就職が困難な時期」をやり過ごしたとして)
「会社等への就職を希望していても,就職ができなかった場合には,
 卒業を延期したり,他の専門分野に進んだりして
 再度の就職の機会を利用しようとしたりすることもあるが,
 数年の努力の後に希望に叶わない事態も生じる
(これは,単に無職であることがリスクであるということだけではなく,
 この時期に社会人として職業上、人関係上重要な経験を得る機会がない
 というリスクにもなる)。」
 《判例時報2329号135頁以下》

■(子どもが「転職」に失敗するリスク)

「新卒で就職した会社等を退職した後,転職に失敗する事態もあるし,
 会社等が倒産したり,合併,企業買収等によって
 就職時に想定した会社等とは全く異なる事態が発生することもある。
 これらの事態も社会人として活動を始めた時期における重大なリスクであり,
 その後の一生にわたって影響を受けるリスクである。」
  《判例時報2329号135頁以下》

■(子どもの「就職後」のリスク)

1.職場でのリスク

「子どもが成人に達し,職業を持ち,あるいは事業を起こす等した場合,
 職業の選択・就職,事業の創業・運営には個人の一生に及ぶリスクを抱えるものであるが,
 現代社会においては,会社等に就職することだけでも,
 様々な理由による職業の選択の誤りパワーハラスメント等のハラスメント,
 職業内の人間関係の悪化,ストレスの蓄積,能力・経験不足,
 会社等の倒産・整理,事業の衰退・廃止,合併・企業買収,
 仕事上の過誤,仕事上の事故,債務・責任の負担,犯罪への関与
 のリスクがあり(これらの仕事上のリスクだけでなく,
 日常生活上,社会活動上のリスクもある),

 これらのリスクが現実化する事態は通常のことである。
 《判例時報2338号137頁》

2.知識・経験・ノウハウの陳腐化

 現代社会においては,個人にとって,
 過去の知識・経験・ノウハウの蓄積が容易に陳腐化する時代になっているが,
 この事態は,個人の一生に照らすと,
 キャリアの形式が役立たなくなるという極めて深刻なものであるため,
 新たな経済環境等の環境の変化に柔軟に対応することが重要な時代が到来しているところ,
 個人の人格,能力,年齢等の属性によって柔軟対応は容易ではない
《判例時報2338号138頁》 
 ・・・※これは,われわれキャリアを積んだ弁護士にこそ当てはまる!!。

3.職場環境の変化

 「個人が一旦就職したとしても,その安定は一時期のものにすぎず,
 次々と様々な変化に対応することが強いられる時代が到来しているため,
 退職から転職,無職,出向,新技術の取得,新知識の習得,
 企業名組織の再編成,雇用形態の変化,雇用条件の変更等が
 日常的に必要になっている。
個人にとって自己の地位も,周囲の環境も著しい変化が生じている現代社会においては,
 個人もその家族も様々なストレスに日常的に曝され,ストレスが蓄積し続けるため,
 病気の罹患,各種の人間関係上のトラブル,仕事上の過誤,取引上の事故,
 生活・活動上の事故,借金,犯罪等の諸問題を引き起こすことがあり,
 リスクの範囲が拡大し,増大している。」
 《判例時報2335号137頁》

 

(社会的評価の高い職業についた場合)

「子どもが学生時代も無事に経過し,それなりの希望に沿った職業,会社に就職し,
社会生活を順調に始めた後,職業生活,会社生活も順調に送っていたとしても,
本人が直接に直面するリスクや,
あるいは家族が直面し,間接に関係するリスクは生活のあちこちに存在する。
個人が社会的に高い評価を受ける会社に就職し,
あるいは専門的な職業に就いた場合であっても
(これらの評価に合った収入を得ることが多いであろう),
高度な仕事上,職業上の働き,業績が求められ,長時間に及ぶ働き,
活動が求められ,会社内,あるいは職業上の競争は激しいものであり
(競争が激化すると,業績向上に向けた働きかけ,ハラスメントも増加する可能性が高まる),
それだけに長期にわたるストレスに曝されることが多い。

高度な仕事上,職業上の活動,業績が求められる場合には,
この要求を満たすことができない可能性が高く,
そのような仕事環境に長期間曝されることは,
精神的にも,身体的にも,判断能力的にも,活動能力的にも,
社会生活,家族生活にも悪影響を及ぼし,
様々な失敗を犯し,失敗を繰り返す可能性が高くなる
(もちろん,うつ状態とか,うつ病等の病気になる可能性もある)。
最近は,ブラック企業との評価を押し付け,
社会的に問題企業であるかの印象を持たせる風潮が見られるが,
長時間の勤務とか業務の遂行は,社会的に高い評価を受ける会社,
職業でも通常に見られる事態である
(弁護士の場合にも,受任した事件の処理状況や法律事務所によっては,
このような事態が見られることは通常である)。
 個人のこのようなストレス,仕事・職業上の失敗は本人だけでなく,
 家族にとっても悪影響を及ぼすものである。」
《判例時報2342号131頁》

(社会的評価が高くもない職業についた場合)

「他方,個人が社会的にそれほど高い評価を受けていない会社に就職した場合や
 低い評価を受ける会社に就職した場合等には,仕事への関心,やる気,意欲,自己評価も低下し,仕事上の失敗を犯し
 (ハラスメントが増加する可能性が高まる),
 会社内での自分への評価,社会生活,家族生活にも悪影響を及ぼす可能性が高くなる。
 この場合には,失職,退職,他の会社への転職,転職困難,
 短期間の転職の繰り返し,資格取得の勉学,引きこもり等の事態
 に陥る可能性が高まり,自分の将来,家族へのリスクがそれだけ高まることになる。
 なお,青年期の最初頃に就職し,その後比較的短期間内に転職した場合,当初の就職先に比べると,会社の社会的な信用,将来性等を含む転職先における勤務条件は低下することが多いであろう。」《判例時報2342号131頁》

 

■(子どもの依存傾向;子どもの不祥事)

 「子どもが成人に達し,就職等をすると,親等の家族にとって,子育てに関わるリスクはなくなるが,子どもの成人,社会人としてのリスクが生じるため,
 未成年,就職前の子どもの時期とは責任の範囲・内容が異なるとしても,
 子どものリスクを抱えることになる。
 特に近年は子どもが成人,社会人になった後にも
 親等の家族の依存関係が相当に濃厚に残る傾向が見られ,
 子どもの親離れが十分にできない状況が続くと.
 親等の家族が子どものリスクをそのまま抱え込むことになる
(なお,近年は,親の子ども離れも十分にできない事例も増加しているようである)。

 例えば,成人に達した子ども,就職した子どもが社会的に話題になった不祥事,
犯罪等を犯した場合などには,親等の家族が社会に謝罪する等の事例が見られ,
マスメディアの中にはそのような謝罪を求めるかのような取材等を行う事例も見られるのは,
 このような現代社会における子どもと親等との関係の一端を示すものである。」
 《判例時報2335号137頁》

■(「親の高齢化」に伴うリスク)

「親が徐々に高齢になり,
 親の失職,退職,親の事業の失敗・倒産,借金等の債務の返済,
 扶養,病気,病院への入通院,事故(加害事故,被害事故),
 介護,施設への入所,死亡等の事態に直面し,
 職業生活を順調に送っている社会人としての子どもが親のこのようなリスクに曝されることになる。
 子どもが学生時代には,元気であったように見える親も,社会生活,職業生活に忙しく,偶に見る親が急激に年をとったように見えることは,多くの人が経験するところであるが,実際には親が様々なリスクと闘っている姿である。」
《判例時報2342号132頁》

 

以上のとおり,現在社会で生起する家庭内の諸問題に取り組む,殆どの弁護士には「タフ」さが求められる。

弁護士が「タフ」であり続けるためには,精神的余裕と経済的余裕が必要不可欠である。

そして,このような弁護士に必要不可欠の生活基盤を,浅はかな考えのもとに奪ったのが

「司法改革」であり,その淵源(諸悪の根元)が「司法制度改革審議会意見書」(会長佐藤幸治・京都大学名誉教授

なのだ。