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荒子観音寺の円空仏「青面金剛神」は,「一面六臂」か。

青面金剛神は,庚申信仰(日本独自の民間信仰)の中で発展した庚申講の尊像であり,一般的な像容は,「一面六臂(いちめんろっぴ)」である。「八面六臂(はちめんろっぴ)」という言葉(多方面で、めざましい活躍をするという意味)があるように「臂」とは「腕」のことで,「一面六臂」といえば,「一つの顔,六本の腕」を指す。

さて,荒子観音寺(名古屋市中川区)所蔵の円空作「青面金剛神」は,なかなか味わい深い像容をしている。

 先の私のブログで紹介した丸山尚一氏の「円空風土記」(119頁),「新・円空風土記」(172頁)によると,この青面金剛神について,「首に髑髏(どくろ)瓔珞(ようらく;仏像の首飾り)を着け,足下に見ざる,聞かざる,言わざる,の三猿と,その両脇に雄鳥と雌鳥を配した一面六臂の青面金剛神(30.3センチ)」と解説されている。

確かに,足下には,左から「聞か猿(A)」,「見猿(B)」,「言わ猿(C)」の三猿が彫刻されている。

 

また,言わ猿の,向かって右横には,「雄鳥」(○印)が彫られ,「聞か猿」の左横には,「雌鳥」が彫られ,猿×3+鳥×2=5。それだけか?
いやいや,なんだか人面様の者がもう一体,彫られていそうだ。

これで,「六臂」?
いやいや,「六臂」は,上記のとおり「六本の腕」を意味する。
ちなみに,中村元先生の「佛教語大辞典」(東京書籍)によると,「六臂」とは,「不空羂索観音の六本の腕か。」と書かれている。
実は,荒子観音寺の「青面金剛神」には,「六臂」(六本の腕)が彫られている。だが,・・・

実は,荒子観音寺の「青面金剛神」は,「六臂(ろっぴ)・六譬(ろっぴ)」というべきではないか思う。
前掲「佛教語大辞典」によれば,「六譬(ろっぴ)」とは,「六衆生」のこと,すなわち,「眼・耳・鼻・舌・身・意にたと(譬)えた,狗(いぬ)・・毒蛇・野干(きつね)・失収摩羅(鰐)・・の六つをいう。」とされている。したがって,円空は,荒子観音寺の「青面金剛神」を造顕した際,「六臂(ろっぴ)」を彫ると同時に,それとは別に「六(ろっぴ)」を意識して六体の鳥・猿・動物(ウサギの耳を掴むように髪を捕まれた人面動物?)を彫ったのではないか,思う。