北口雅章法律事務所

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改めて想う、円空の【小萱(こがや)】での事跡

【小萱(こがや)】は、千光寺から、真北に向かった奥飛騨にある。

下掲・図面上では、白山神社(㉓)と薬師堂(㉔)とが位置する地である。

 

円空は、小萱の地では、善女龍王【画1】、迦楼羅〈カルラ〉【画2】、及び稲荷神【画3】を造顕して、これらを白山神社に遺し、薬師堂には、2躯もの薬師如来【画4】を遺している。それとともに、この地で、少なくとも2首の和歌を詠んでいる。

これらの円空仏は、いずれも、先の三井記念美術館で鑑賞することができた。図録の写真は素晴らしい。

【画2】迦楼羅〈カルラ〉

 

【画1】善女龍王                          【画3】稲荷神

                           

【画4】薬師如来

 

 善女龍王〈頭上に龍〉は、古来、雨乞い等「水がかり」の祈願に用いる仏像で、迦楼羅〈鳥頭〉稲荷〈狐顔〉とは、円空特有の異形の組合せである。いずれの異形〈護法神〉も善女龍王龍王の効験を増強させる目的で造顕されたように思われる。また、当地の薬師堂では、2躯もの薬師如来が造顕されているのは、同様に、薬師如来の効験〈人々の病を癒し、苦悩を救済する〉を増強させることを企図したものと思われる。そして、このことを裏付けるのが、円空が小萱の地で詠んだとみられる下掲2首の和歌である。

 

鳥の子の 小萱(こがや)薬師を作(る)ん 十二支どもの神ぞかた(堅)けれ974

[解釈]発句の「鳥の子の」は、「子がや(小萱)」の「子」に掛かる枕詞。「鳥(=迦楼羅)」が「神」の縁語。「十二支」は十二神将薬師如来の眷属〉を指す。

[大意]小萱の地で、薬師如来像を作ろう。〈その護法神としての〉十二神将の加護を得て、この小萱の地での仏法の効験は確かなものとなるでしょう。

 

小萱野(こがやの)の新田(あらた)の野辺(のべ)の花なれや これぞ御法(みのり)の初(はじめ)なりけり[653]

[解釈]「御法(みのり)」の語は、「仏法(護法)」と「穣(みの)り」の掛詞と解する。
[大意]小萱の地で、新田が開発されました。野原では、野花が咲いています。小萱野の新田は、野辺の花のように、根付き始めた仏法に護られて〈円空が造顕した善女龍女の効験により〉、豊かな穣(収穫)をもたらしてくれることでしょう。
[備考]「小萱野」と「野辺」の二カ所に「野」が読み込まれ、助詞の「の」を含めると、5文字の「の」の音で、「野(の)」が強調される。元来、「野」とは、比較的平坦な地形ではあるが、小萱の地は、小高い場所にあるため、水がかりが悪く、特に水田開発に適さないと考えられてきた(足利健亮「地図から読む歴史」講談社学術文庫205頁)。このように、水田開発に適さない小萱の「野」ではあったが、円空の祈祷の効験により、新田開発を進めることができたことへの慶びを詠んだものと考えられる。