北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

ある痴漢冤罪事件

昨日(10月22日),通勤途上の名古屋市営の地下鉄内で,
こんなポスターをみかけたことで,「ある痴漢冤罪事件」を思い起こした。

名古屋市交通局が発行する上掲・ポスターは,
御存知,当地の英傑「織田信長」が,
背中に大きな「リュック」を担いだ,地下鉄利用者に向かって,
名古屋弁で,
「たゃーぎゃーにしなかんゾ」(大概にしないといかんぞ)
「たぁーけモンがー」(馬鹿者めがー)
と注意している漫画。
「混むならば まわりに気づかえ そのリュック」
という川柳が真ん中に記載され,
「リュック」を背負った御仁は,周囲の迷惑そうな視線に,
気づいていないのか,見て見ぬふりをしているのか,
周囲の迷惑・顰蹙を無視している,という風刺漫画が描かれている。

このポスターをみて,数ヶ月前に相談を受けた,「ある痴漢冤罪事件」を思い出した。

相談者は,今から約30年前,ある場所で知り合った大学時代のお友達(大阪在住)。
彼は三重県津市出身で,上智大学法学部を出て,会社に就職し,
アメリカに長く住むなどしており,今では,年賀状友達だ。
その彼から,
「北口くん,ちょっと言いにくいが,『痴漢』で逮捕された。
 絶対にやっていないが,大阪府警が信用してくれない。
 まだ,取調べが続いている。相談にいきたい。」
との電話があった。
大阪・京都の弁護士(同期)を紹介したが,断られた模様。
「わかった。じゃあ,逮捕の状況,取調の経過を含め,
 全てをメモに書き出してから,事務所に来てくれ。」
と申し向けてから数日後,大学卒業以来,久しぶりにあった彼は,
倦怠感ただよう中年男になっていた。

今年の3月,
準急電車の中で,突然,前の女性から,「痴漢!」と叫ばれ,
背後にいた男に手をつかまれ,「痴漢だと言っているんだから,降りろ。」
といわれたため,下車し,冤罪を訴えるつもりで,
一緒に任意にホームの駅員室に出向き,駅員に事情説明していたところ,
別の駅員が警察を呼んだとみえて,
その場に現れた警察官が,
突然,「逮捕だ。」といって,手錠とロープをかけられたという。
パトカーに乗せられ,連れて行かれた警察署では,取調室で身体検査と所持品検査。
手錠は外されたものの,腰にくくりつけたロープはそのままで,
さながら「飼い犬」がロープに引かれるごとく,机に装備された留め具に繋がれたという。
大阪府警のやり口に憤慨しながら,聞いていると,
取調官からは,
「被害者の方では,『体に男性の陰部を押し付けられる痴漢行為にあった。』,
『犯人の顔を見た。』と言っている。身に覚えはないか?」
と強圧的な取調べ続いた,という。

その一方で,彼は準急電車の中で何をしていたか?
現在の会社の仕事が生にあわず,ややうつ状態で,音楽にのめり込み,
通勤路を最短で移動せず,遠回りしてやや外れて迂回していた行程での出来事だった。
(ここが,痴漢目的を疑われた理由の1つ。)
ところが,彼は,名古屋市交通局の前掲ポスターの御仁とは「真逆」に,
リュックをカンガルーのように前に抱えこんで,
スマホで音楽を聴いていたという

そんな,体勢で痴漢行為ができるわけがないだろうが!!
 その警察官は,典型的なバカだな。
 大丈夫だ。安心しろ。
 君が,女性と君の間にリュックがあったことを貫けば,
 検察官が君を起訴することは,絶対にないから。
 万が一,起訴されるようなことがあったら,ボクが弁護してやるよ。
 君が否認を貫き,その『リュックの位置』を貫けば,だがね。」

と言って,彼と,心配そうに彼についてきた,彼のカミサンに請け合った。

 その彼から,令状じゃなかった礼状が届いたのは,その数ヶ月後だった。
「検察庁に行ったところまでは話したが,あれからは,何もない。会社を辞めて,八ヶ岳の麓に家を買った。今は,静養しているので,遊びに来てくれ。」
 と。

即座に,「まだ老け込むような年齢ではないだろうが!!」
と一喝する電話をかけてやった。