北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

言葉の 「内包」 と 「外延」

弁護士は,「言葉」を扱う仕事であるが,
ある言葉について,自分がアタリマエだと思っていた意味が,
必ずしも,他の方々にとっては,アタリマエとはいえず,
また,その「言葉」に含まれる語調についても,
人によって感じ方が大きく異なることがあって,
私にとっての「常識」が他者に通じず,
ドキッとすることが多い。

例えば,「反社会的勢力」という言葉がある。
 目下,この言葉の「外延」が裁判で争点となった事件に取り組んでいるが,
「反社会的勢力」といった場合,例えば,
「暴力団・暴力団組員」は,もちろん「反社会的勢力」に含まれるであろうが,
暴力団の「資金源」として,その後方で,暴力団に資金的援助をするなど,
その活動を支えている後方支援者は,「反社会的勢力」に含まれるであろうか?

私などは,当然,暴力団の後方支援者(フロント企業等)も,
「反社会的勢力」に含まれることはアタリマエではないか,という理解であったが,
典型的には,「暴力団・暴力団組員」に限られる!,という若い裁判官もいたりするので,このような裁判官を説き伏せるには,どのような主張を展開したらよいか?
と苦慮したりする。

 

あるいは,「プロパガンダ」という言葉がある。
この言葉は,ある特定の政治的主張を一方的に「喧伝(けんでん)」することだと思っていたら,本来の意味は,「気づかれないうちに」刷り込むことを指すという理解もある。
曰く「プロパガンダとは,17世紀はじめ,カトリックがプロテスタントに対抗して布教するときに使ったことば,現在は,自分たちの政治理念・思想などを,相手(民衆)に気づかれないうちに浸透させて,考えや行動に影響を与える意図をもった宣伝活動のことをいう。」と。

<出典> 松田行正著「RED ヒトラーのデザイン」(株式会社左右社)

あわてて,「プロパガンダ」の語義を調べると,
私のような理解のもとに使われることもあると確かに書かれてあり,
ホッとする。

これまで,「法律家は,言葉に習熟し,正確に使用しなければならない」と教わってきた。
そういえば,大学入学直後に受けた,今は亡き三ヶ月章教授の「法学入門」でも,
同教授から,
「諸君,法律家になるなら,諸橋徹次先生の大漢和辞典くらいは,
 座右に揃えておかないといけない。」
などと,大風呂敷を広げられ,フ~ン,一流の法律家というのは,そういうものかと納得してしまった思い出があるが,今なら,「先生,ご冗談を。」と笑って受け流せる。