北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

“反骨の人” 団藤重光先生

団藤重光先生は,東京大学法学部の刑事法(刑法・刑事訴訟法)の教授から,
最高裁判事に就任された先生である。
団藤先生が,最高裁判事を務めてみえた当時の最高裁第一小法廷判決・大法廷判決は,
面白かった。「またか,またか」というほどに團藤先生が反対意見を書いてくれていたからだ。
今の最高裁のように9割9部が,俗にいう「三行半」(=却下判決)で,
最高裁判事が判断を全く示さない,という時代ではなかった。

団藤先生ご自身,「私ほど反対意見を書いた最高裁判事いない」と公言されており,
誰も異論がない「ヒューマニズム」の立場からの「反骨精神」の持ち主であった。
(私の司法試験時代は,団藤先生が書かれた「刑法綱要」を繰り返し精読した。)

その団藤先生が,生前(2007.10),「反骨のコツ」(朝日新書)と題して
伊藤乾准教授(東大大学院情報学)との対談書を出版されている。

本の帯には,「日本刑法の父 團藤重光 93歳に学ぶ」
「元気の出る 反骨のススメ」とある。
紙のカバーの裏には,
「東大法学部長,最高裁判事を歴任し,93歳になった日本刑法の父は,
 反骨精神の塊だった!」と書かれている。
このような「反骨精神」をもった判事が最高裁,否,裁判所全体から消え失せ,
われわれの弁護士業界でも,「反骨」,「気骨」を感じさせる人材が著しく減少傾向
にあるのは寂しい限りだ(但し,藤山雅行裁判官は別格)。

團藤先生の「反骨のコツ」には,ほぼ全面的に賛同・共感できる。

とくに,團藤先生の「裁判員制度」に対する評価は手厳しい。

曰く「…司法の民主化,公開性,透明性を本当に言うのであれば,
 それは国民の中から湧きあがってくる力でなければならない。
 それなら僕は尊敬しますけどね。
 要するに法務省あたりで考えて,誰かが裁判員って名前を考えついて
 そうしただけのことでしょう。だから僕は,この裁判員ってのは,
 くだらないの一言に尽きるんです。
 …何の知識もないものが,法廷でものを言えるわけがない。
 やっぱり餅は餅屋でちゃんと裁判官が裁判しないといけない。」(134頁)

 「ともかく裁判員なんてごまかしですよ。」(137頁)。

 

全く同感である。

ところで,私の大嫌いな裁判員制度の「名付け親」はどなたか
皆さんは,ご存知か?

実は,その「名付け親」の訃報に接して,このブログを書き始めた。
そう松尾浩也先生である。

何を隠そう。実は,私の師匠の1人である。
私は,大学時代,松尾浩也先生の刑事訴訟法の教科書を使い,
実は,私は,松尾浩也先生の刑事訴訟法のゼミ生だった。

・・・・

ゼミ生「取調受忍義務について調べてきました。」
松尾先生「受忍義務というのは,どういうときに使われる言葉ですか?」
ゼミ生「ウ~ン…,カラオケの騒音訴訟なんかで,そのくらいは受忍限度でしょ,
    なんて裁判官が判示するときに使いますよね。」
松尾先生「じゃあ,取調というのは,『カラオケの雑音』みたいなものですか?
          ・・・そうじゃないでしょう!!」
         
・・・・などといった,学生時代が蘇る。
          松尾先生との思い出に浸りつつ,
    謹んでご冥福をお祈ります。 合掌