北口雅章法律事務所

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患者・病院ともに「痛みを伴った」無痛分娩

 

これだな。

京都地裁令和3年3月26日判決は,「本件は,原告Aが,被告の開設する本件診療所に分娩のために入院し,無痛分娩のための腰椎麻酔を受けた後に心肺停止状態となり,その後心拍が再開したものの,心肺停止後脳症,低酸素脳症等の障害を負ったこと,及び,重症新生児仮死の状態で出生した児が,新生児低酸素性虚血性脳症等の障害を負ったこと(後に死亡)について,原告らが,原告A及び児の上記障害は,被告理事長医師が原告Aに対して上記麻酔を行う際,① カテーテルを硬膜外腔に留めた上で麻酔薬を分割投入する義務に違反し,硬膜外針をくも膜下腔まで刺入させ,同所に留置したカテーテルから麻酔薬を一度に注入したこと,② 全脊髄麻酔症状を呈した場合に速やかに呼吸を確保し,血圧の回復ができるよう,人工呼吸器等を準備し,あらかじめ太い静脈路を確保しておく義務があるのにこれをいずれも怠ったことにより発生したと主張して,被告に対し,債務不履行に基づき損害賠償を請求する事案」で,被告に原告Aに対し約2億7036万,原告B(Aの夫)に対し,約2758万円の損害賠償命令を判示した。

ちなみに,

京都地裁平成30年3月27日判決では,
「原告らの子(亡訴外人)が出生後に脳性麻痺となったのは,被告法人及び亡訴外人の担当医である被告医師(被告法人理事長)の診療行為上の各過失によるものであるとして,原告ら(子が死亡したことにより承継)が,被告らに対し,不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償を求めた事案」で,
「被告らは,Aは無痛分娩を希望し,その実施に同意しており,その包括的な内容としてオキシトシンの使用についても同意している旨主張する。しかしながら,被告らが原告らから徴収した手術及び麻酔承諾書には,無痛分娩等により万一異変が起きようとも決して苦情を述べない旨の記載があるのみであって,そもそも,被告医師が,Aに対し,無痛分娩のその有用性と危険性について,どのような説明を行ったかは全く不明であり,オキシトシン使用による胎児仮死発生の可能性について,Aに対し,適切な説明を行ったとは認め難い。したがって,被告医師が,Aに対し,オキシトシンを使用するに際し,胎児仮死発生の可能性について説明をしなかったことにつき,注意義務違反が認められる。」としながら,「亡訴外人の脳性麻痺が,分娩中の被告医師の各注意義務違反(オキシトシン及びマーカイン各投与,吸引分娩及びクリステレル圧出法,分娩監視装置装着に関し)に起因する低酸素を原因としていると認めるには至らない」,「被告医師の説明義務違反が,脳性麻痺と相当因果関係がないのは明らかである。」などとして,患者側の請求を全面的に棄却したが,大阪高裁で和解した,ということか。

一般に,事案の性格上,同種事案の京都地裁の判断が分かれるのは,解せない。
後者の裁判体は,説明義務違反と結果との間の因果関係を否定してよかったのか?・・・とも思ったが,判例時報2388号60頁を読むかぎり,原告からは「術前説明が適切になされていれば,無痛分娩なんかしなかったのに」といった主張がなされていない。患者=依頼者の本意か,あるいは,・・・?

ちなみに,後者の京都地裁判決を書いた裁判官が名古屋地裁医療集中部に転勤してきていて,目下,私が説明義務違反を強く主張ししている医療裁判の主任裁判官なので,気になるところなのだが。