北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

公立小学校教諭の脳幹部出血

軽度の高血圧症をもつ,小学校教諭X(44歳男性・算数)が職場から帰宅後に意識を消失し,救急搬送された病院で脳幹部出血と診断され,後遺障害が残った。そして,この脳幹部出血の発症・後遺障害が,過重労働による公務災害と認められるか否かが争われた労災訴訟の判決(福岡高裁令和2年9月25日)が法律雑誌(判例時報2494号)に出ていたので,読んでみた。

地方公務員災害補償法に基づいて,公務災害か公務外裁判を認定・審査する行政機関(地方公務員災害補償基金等)は冷たい(公務外と認定)。そして,第1審の熊本地裁も,脳幹部出血発症前1か月間の時間外労働時間が月100時間に達していないことを重視したようで,公務の過重が,教諭Xの基礎疾患(高血圧症・血管病変等)を「著しく」増悪させたとはいえないとの理由で,「公務外」の災害と認定し,教諭Xの請求(公務外認定処分の取消)を棄却した。

これに対し,福岡高裁は,「著しく」の要件を取っ払い,原審・熊本地裁の判決を覆した。

福岡高裁が,教諭Xの脳幹部出血の発症・後遺障害を公務災害と認める理由として,重視した事情は,次のとおり。
①教諭Xの発症前1か月における時間外労働時間は,認定基準の月100時間(週25時間)に達していなかったが,発症前1週間と,発症前2週間は,いずれも認定基準(週25時間)を超えていた。
②自宅での時間外労働時間は,「緊張の程度は低い」とはいえ,勤務時間内に未了の作業内容の延長であり,それによって睡眠時間が減少している,
土曜日・日曜日の部活動(野球部)の試合の引率についても,午前の早い時間に自宅を出ることで,睡眠時間と休日の休息時間を減少させ,疲労回復を遅らせる要因となったといえること,等である。

これに医学的経験則長時間労働の継続による睡眠不足・疲労蓄積が脳血管疾患の増悪因子となる)を総合考慮して,脳幹部出血発症の基礎疾患(血管病変等)を自然経過を超えて増悪させた(公務に内在する危険を現実化させた)と認定し,公務災害と認めた。

ちなみに,上記福岡高裁判決を下した裁判長は,私の大学時代のお友達のM君。やはり彼は,賢いし,温情がある。かつて,彼が名古屋地裁行政部の部総括判事に赴任してきたとき,私が裁判所に出向いた際,挨拶に立ち寄ったら,ニコニコして裁判官室に通してくれた。アレ以来,彼には会っていないが,元気でご活躍のようだ。