北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

患者の承諾なきカルテ情報の開示・漏洩は,プライバシー侵害ではあるが,…

 母親Aが,「丹毒」を患い,公立病院Hを受診したことから,患者の娘Bが,H病院に勤務する小児科医(女性)の友人Cに頼んで,母親のカルテ情報を開示してもらったところ,母親Aが,C医師と病院Hに約330万円の慰謝料を求めて裁判を起こし,大阪地裁は,約5万5000円の慰謝料を認容した,という。

(産経新聞より)

丹毒(erysipelas)」とは,顔面又は下肢などに,発赤・腫脹・水疱などを伴う,細菌性の皮膚炎(β-溶血性レンサ球菌が起炎菌)で,通常,高熱・悪寒戦慄などの症状を伴う比較的まれな疾患である,とのこと。
 であれば,症状(発赤)は,娘Bが母親Aの顔面や,足をみれば,わかる。
新聞記事によれば,「女性(A)は,詳しい状況を長女(B)に伝えていなかった」とあるが,裏をかえせば,「詳しい状況」でなくても,患者=母親Aは,娘Bに,触り「簡単なこと(多分,病名と治療見込期間)」くらいは伝えたことが窺いしれる。
 となれば,娘Bとしては,友人医師Cから母親Aのカルテ情報を「母親Aに内緒で」(Aの承諾なしに)入手する理由が不明だし(それほど重大な疾患ではないように思われる。),母親Aとしては,娘Bに,友人医師Cから自分の病状を聞かれたから,といって「目くじらを立てて」怒るようなことだろうか。まして,330万円もの慰謝料請求をするような裁判事案であろうか。弁護士がいくら費用をAからもらったかしらないが,認容されても,弁護士費用に消えてしまう程度の慰謝料しか認容されないことは当然に見込まれたはずだ。
 確かに患者Aの承諾なしに,そのカルテ情報を娘Bに伝えた医師Cが法的に責任を負うことは理論上は当然であるが,それで患者Aの気持ちは晴れたのであろうか。「精神的苦痛」といわれるが,娘Bを叱責して事足りたことではないのか(娘Bが母親のことを心配して,カルテ情報を得たのであれば,叱責するほどのことはないようにも思うが,…)。娘Bを産み,娘Bをそのように育てたのは,あなた(母親A)でしょう?。母親Aが,娘Bを訴えずして,その友人にして医師のCと,その勤務先H病院を訴えたことで,A・Bの親子関係がギクシャクし(もともとギクシャクしていたのであれば,より一層ギクシャクし),娘BとC医師との交友関係に亀裂が入るであろうことは,容易に想像がつく。その上,それなりの弁護士費用を払って,母親Aの気持ちは晴れたのであろうか。
 このように裁判を起こせば,かえって人間関係をこじれさせ,ギクシャクさせる可能性が高い状況のもとで,たかだか慰謝料5万円レベルの問題に,「いまどきの弁護士」は首を突っ込んだのであろうか。患者Aの代理人弁護士は,よほど強く患者Aから頼まれたのか(私なら,どんなに強くAから頼まれても,Aの気持ちをなだめることに徹して,訴訟代理の受任は断ると思う。),あるいは,受任弁護士自身においては,医師Cのカルテ情報の漏洩が,「けしからん!,悪質だ」と思って,「正義の鉄槌」をC医師・H病院にくらわせる必要があるとでも思ったのであろうか(病院側に一言,謝罪文を書かせれば済んだ話ではないのか。それでは,当事者が納得しなかったので,「裁判上の和解」も拒否したのであろうが。)。公立病院に個人的な恨みでもあったのであろうか。

内情はよくわからないが,こんなレベルの事件を「司法」で,わざわざ「裁判所」と「弁護士」を使ってまでして解決するために,「司法の容量を大きくする」などと標榜して「司法改革」が行われたのか? と思うと,非常に不愉快になるし,情けなく思うのは,私だけであろうか。まったく気分の悪いニュースだ。