北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

思わず衝動買いした「労働・判例百選」

大学法学部に進学すると,法律科目ごとにジュリストという法律雑誌の別冊「判例百選」の解説を読んで,裁判例を勉強する。「判例百選」は,文字通り各法律科目ごとに重要な裁判例を編集者が約「百」例選んで,各判例について,学者らが,その裁判例の意義等について解説している。

昨日(1月28日),弁護士会の書店に立ち寄ったら,「労働・判例百選」が新刊(令和4年1月発行)で平積みされていた。「ひょっとして?」と思い,立ち見すると,WADASUが最高裁第二小法廷でいただいた労災事故の裁判例が「百選」に掲載され,島村暁代准教授(立教大学)の解説がついていた。そこで,思わず衝動買いした。

被災者(労働者)は,一人職場で居残って残業していたところ,上司から中国人研修生の歓送迎会に顔を出すように要請を受けた。このため,残業を一旦中断し,その歓送迎会の終了間際に顔を出した後,再び,職場に戻るべく自動車で発車したが,その際,酩酊した中国人研修生を乗車させ,彼らを社員寮に送る途上で,事故死してしまった。小雨で道路面が濡れて滑りやすくなっており,自動車がスリップして対向車線に向かって滑走してしまい,対向車(確か大型トラック)と正面衝突してしまったのだ。

抽象的な判例基準が判示されていたわけではなく,「事例判断」なので,「労働・判例百選」に載ることはないであろうと思っていたが,島村准教授の解説によると,従来の行政実例や,本件第一審の東京地裁や,本件第二審の東京高裁は,歓送迎会への参加と,自動車の運転行為等の各行為を分断して各々個別に評価し,業務遂行性を否定したのに対し,最高裁(平成28年7月2日判決)は,「一連の行動」という評価概念を持ちだして,「一連の行動を一括して評価の対象とする手法(一連事情一括評価方式)」を提示して原判決を破棄したが,この手法は,「本最高裁が初めて提示した手法であり,この点で本件判決は重要な意義を有する(小西康之・ジュリ1507号145号)」のだそうだ。

被災者が出向していた勤務先の親会社は,名古屋に本社があり,依頼者も名古屋の住民である。そこで,国(法務省)を相手に裁判を起こす場合は,名古屋地裁でも起こせたが,どうせ国の行政機関(法務省・厚生労働省)とケンカ(裁判)するなら,東京地裁・東京高裁で闘おうと思って起こした裁判であった。まさか最高裁での逆転劇になるとは思いも及ばなかったし,「判例百選」にまで載せてもらえるとは,夢にも思わなかった。
 もとより,最高裁での口頭弁論は,WADASUの単独受任事件では,初めての経験だった(それが「最初で最後」とならないように,引き続き努力したい。)。

あれから,早,5年以上も経つ。