北口雅章法律事務所

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石原慎太郎の憲法改正論

このほど,石原慎太郎が逝去された。
大学で,「サヨク的リベラリズム」を植え付けられた私としては,本能的に近づかなかった政治家ではあったが,偶々,後記理由から購入してあった月刊誌「WiLL 2018年7月号」に,石原慎太郎「憲法改正は民族の沽券」と題する論考が載せられていたので,読んでみた。

文章は難渋で分かりにくいが,強調したいことが,言葉を変えて「2回ずつ」「韻を踏むように」繰り返されているので,彼の根幹にある政治思想はよく理解できる。
故人を偲んで,紹介しておきたい。

石原慎太郎は,要するに,①「日本の代表的知性だった小林秀雄」の言葉を二度にわたって引用し,②「僅か三時間」での憲法審議を終えよと「厳命」してきた「為政者(GHQ)からの(屈辱的な)横暴」を想起せよ,と呼びかける。その際,石原慎太郎に特有な「世界史の原理」を見据えた「民族主義」的な矜恃が顔をのぞかせる。

石原慎太郎が強調する「日本の代表的知性だった小林秀雄」の言葉は,要するに,歴史を振り返り,歴史を考え直すべきだ,ということである。石原慎太郎が小林秀雄の言葉として援用する,「歴史を現実として考える時には少し遠い目で歴史を振り返り,歴史の問題について考えなくてはならぬ筈だ。」「(憲法改正と言う新しい歴史の造成の時にあたって)私たちは一度さして遠くもない昔の歴史をふりかえって我々が論じ考えなくてはならぬものの所以を,己のためだけだけではなしに,間近な子孫たちのためにも考えなおさなけくてはなるまいに。」という同じ趣旨のことが2回にわたって繰り返し強調され,憲法改正が,歴史認識を想起すべき機会であると言明される。

 

そこで,石原慎太郎の脳裏にある「歴史的記憶」とはなにか。
それが,現行憲法にかかる「屈辱的な挿話」であり,「押し付け憲法論」だ。
曰く「突然持参した彼等(GHQ)の手作りの憲法の原案を政府関係者におしつけ僅かに三時間の間に熟読しこれを了とせよと厳命し,その間我々(GHQ)は日向ぼっこして原子力の恩恵に浴していようと恫喝とも嫌みともつかぬ捨て台詞で部屋を外していたという屈辱的な挿話」,換言すると,「ある時突然一部の政府関係者も困り,提示してわずか三時間の間に通読して了解せよと迫り『その間我々(GHQ)は外で日向ぼっこし原子力の恩恵にひたって過ごすから』と…脅迫じみた冗談で当事者を追い込んだ為政者(GHQ)の横暴」と同じ意味のことがくりかえされ,このような「歴史的現実」を「想起せざるを得まい」と強調されている。

石原慎太郎は,日本民族は,「世界の歴史の原理」に真っ向から背いて立ち上がった民族であり,このような「民族の沽券にかけて」憲法改正に着手しなければならないと述べる。その「世界の歴史の原理」とは,「白人の有色人種への一方的な支配」だ,という石原慎太郎の歴史認識が顔をのぞかせる。「有色人種の中で唯一の近代国家を作り上げてしまった」日本人は,「世界の歴史の原理」に背いたのであって,「既に制空権を失った首都(東京)への焼夷弾による非人道的な絨毯爆撃の行使の背景に在るものは,世界史の原理に唯一背いた者への報復に他ならなかった。」という,ある種のルサンチマン(ressentiment)が石原慎太郎の政治思想の根底にあることは自明であろう。

 

 

何故,このような雑誌を持っているか?というと,

私のブログを引用してくれる女性ジャーナリストがいたんだよ。