北口雅章法律事務所

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「新発見の円空仏」に想う

先日,令和4年10月1日発行の季刊「円空学会だより」が届いた。
「貴重な円空仏 新発見」と題して,三体の円空仏が,前田邦臣常任理事の撮影写真等でで紹介されていた。この令和の時代になっても,なお「新発見」が続くこと自体が瞠目すべき「貴重な」ことには違いないが,文化財として,如何なる意味で「貴重」なのか,やはり一体ごとに解説が欲しいところだ。


 
 上掲・不動明王(像高11.7㎝)は,三重県伊勢市(浦口3丁目1-29,伊勢神宮の外宮に近い。)の法住院で発見されたというが,その像容といい,背面の梵字の特徴といい,文句なく,円空仏だと思う。もっとも,管見ではあるが,上掲不動明王にしては,その大きさ(小さい!)といい,発見地といい,非常に珍しく,この意味で貴重な発見であろう。

 

 次に紹介されていた上掲・観音菩薩(像高49.8㎝)についても,背面に梵字がないとはいえ,その像容は,みるからに円空仏である。ただ,東京都在住の個人所蔵とのことなので,発見の経緯や,所蔵に至った由来や,それにまつわる言い伝え等の事情も紹介してもらいたいものだ。小島梯次理事長によれば,「江戸で造像したと思われる円空像はみつかっていない」(「円空仏入門」75頁)とのことであるから,当該観音菩薩像も,所蔵者の住所移転に伴って,東京都内に搬入されたものと推定されるからだ。

 

 一番問題なのが,最後に紹介されている「稲沢市非公開の不動明王」座像(像高42.5㎝)であろう。一見して,円空仏としては違和感があり(微笑がなく,大きさに照らして初期像であることは考えにくいにもかかわらず,体表面がスベスベにされている。),現時点で,私は「模作」説である。このように新発見の円空仏の真贋に疑義のある像については,円空学会として,「評議会」を構成して,会議体できちんと審議していただき,その議事録を各会員に閲覧できるようにしてもらいたいものだ。理事長はじめ美術史学の専門家の高齢化が進み,日本国全体の知的水準・文化的レベルの劣化が著しい昨今の状況に照らせば,新発見の円空仏に係る真贋の鑑別について,専門家・評議員が如何なる観点に着眼するか,それに対し他の評議員がどのような反応を示したか,といった審議の内容自体も,今後,貴重な文化資料になるものと予想されるからだ。