北口雅章法律事務所

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「反則負け」の違和感

 将棋(名人戦・A級順位戦)にて永瀬拓矢王座(30歳)との対局中、佐藤天彦九段(34歳)が、対局中にマスクを外したままの状態になったことを理由に「犯則負け」となった、という。
 非常な違和感をぬぐえない。

 将棋の各棋士においては、対局中のマスク装着義務があるが、「一時的な場合」は、マスクの取り外しが許容される(規定1条)ところ、「一時的」とは、どの範囲の時間を指すのか明示の規定はない。その一方で、マスク装着義務違反については、「犯則負け」という重大なサンクション(制裁)が課せられるが(規定3条)、その違反時間の範囲が一義的に決まらないからか、その判定は、立会人又はその代行者らの協議・評価に委ねられ、本件の場合も、対局相手(永瀬拓矢王座)の申告・指摘に基づいて、その場に「立ち会っていなかった」鈴木常務理事と佐藤会長との「協議」により、「犯則負け」と判定されたという。
 しかしながら、「マスクの取り外し」は、単なるマナー違反の問題であって、将棋の方法違反ないし「禁じ手」の問題ではない。許容される「一時的な取り外し」のつもりが、真剣勝負の最中、つい手筋の「ヨミ」に熱中して、マスク再着用を失念してしまう、という事態は十分に想定されるのであって(刑法的には「忘却犯」という。)、不注意に基づくマナー違反を認めた者は、その場で、そのマナー違反を注意すれば足りることである。現に、佐藤九段によれば、「以前は、マスク着用の注意を受けていたケースもあった。今回は注意も受けていない。」というのであるから、対局者・立会人を含む周囲の者が、マスク着用を失念している者に対し、その旨の注意喚起することで、コロナ禍対応としては、必要にして十分であろうし、将棋対局の目的に違反するともいえないように思われる。
 要するに、マスク不着用の対局者に対しては「警告の手続」を前置させるべきであり、その違反者がその警告を無視したときにこそ、「反則負け」にすべきである(このような規定にしなかった立案者がトロい。)。対局者が対局相手のマナー違反を制止することもなく、黙ったまま、不定期間の経過を待って、「反則負け」のサンクションを与えることには、およそ合理性を感じない。
 対局相手の永瀬王座においては、「佐藤先生、マスクが外れてますよ。」と警告・注意すれば足りることであって、「対局者の失態」を30分もの長時間、じっと見続け、30分も経過したと見定めたところで、「はい、反則負けですね」という申告を行うのは、およそ紳士的なフェアプレーとはいいがたく、私には、いかにも陰険な態度に思えるが、いかがなものであろうか。「真のプロ」であるならば、「将棋の実力で勝負を決めたい」と思うのが、正当な態度だと思う。