北口雅章法律事務所

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[円空仏入門]観音が天邪鬼を踏みつけるか?!

昨日(令和5年2月19日)、「関市円空館」(池尻)に出向いたところ、展示スペースの入り口・真正面に、阿弥陀寺旧蔵の聖観音が置かれていた。

「岐阜県の円空仏」より

 

 問題は、その横に貼られていた解説文だ。
 向かって左側の足下に「天邪鬼が彫ってあります」、「観音様の足が冷えないようにと、天邪鬼みずからが優しい心遣いをしているのではと解釈される方もあります」などと書かれているが、ハッキリ申し上げて、この説明は、誤っていると思われる。

 解説者も承知のとおり、天邪鬼が足で踏まれるのは、岩座に経つ四天王(特に持国天)に決まっている。一方、観音は、蓮華座の上に立っているので、天邪鬼が岩座との緩衝材になるいわれがない。むしろ、その剽軽(ひょうきん)でユーモラスを感じさせる、円空独特の像容に照らし、当該動物は、文殊菩薩の乗り物である「獅子」であると思われる。となれば、「一像多機能」の可能性もある。

(土門拳撮影・東寺講堂)

 

円空作「文殊菩薩」(三重県伊勢市・中山寺ちゅうざんじ)

 また、上掲解説には、「光背を彫った円空仏としても、注目すべきだ」と書かれているが、はたしてそうか。上掲・聖観音は、磨崖仏のようにレリーフ様に彫られているが、何故、頭部周囲の「彫り残し」部分が「光背」といえるのか?根拠が示されていない。
 光背であるならば、後頭部から「上下左右に」=「横方向」に放射するはずであって、後頭部より「前方に」出てくるのはおかしくないか? 関は、飛騨と尾張の中間点にあり、関の円空仏の年代特定は難しいが、この聖観音は、いかにも円空晩年の名作であることに照らせば、さすがの円空も、既に高齢化に伴い、― 高賀神社の十一面観音三尊を最後に ― 樹木を縦割りにする力を失っていた可能性も否定できない。上記解説によれば、この聖観音は、ケヤキ(欅)から彫られているとのことなので、縦に割ることは必ずしも困難ではないヒノキ(檜)やスギ(杉)と異なり、ケヤキ(欅)の材は堅く、一般に(鉈で)割るのは困難とされているからだ。