北口雅章法律事務所

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トランスジェンダー(T)のディレンマ

先のトランスジェンダー・トイレ事件の最高裁判決では、全裁判官が補足意見を述べており、「個人がその真に自認する性別に即した社会生活を送ること」が法的に保護される重要な利益「重要な法益」)だと説示されている。
 しかしながら、最高裁判事らの上記補足意見の論旨には、「性別適合手術を受けていない」Tの場合、矛盾ないしディレンマが含まれているように思えてならない。

 第1に、「トイレの中」は当たり前であるが「個室」である。他人の目に晒される可能性のない、あるいは、人と人との接触・交流のない、「個室内」でのTの排泄行為は「社会生活」といえるのだろうか。

 第2に、一歩譲って、「個室トイレの中」も「社会空間」だとして、「個室トイレ内」でも排尿・排便行為が「社会生活」の一環であるとしても、便器に向かって排泄行為をなす上で、「性別適合手術を受けていない」Tが「自認」する性別は、「男性」(泌尿器)の方ではないのか。

 第3に、職場以外の「社会生活の場」(公共空間)で、「性別適合手術を受けていない」Tと一般女性との「共用」が物議を醸す可能性のある場所といえば、せいぜい、①公衆浴場(温泉・銭湯等)、②スポーツクラブ等の更衣室くらいのものではないか。
 しかし、「性別適合手術を受けていない」Tにおいては、自らの裸体・姿態を他人の「好奇の目」に晒す危険・可能性のある上記①②の社会空間を好き好んで使用しようなどとは全く思わないのではないか。

 このように考えてくると、最高裁判事らが、「個人がその真に自認する性別に即した社会生活を送ること」ができるように「十分に配慮し、真摯に調整を尽くすべき」と論じたところで、「性別適合手術を受けていない」Tとの関係では、どのような実益があるといわれるのだろうか? よくわからないといわざるを得ない。