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ダグ・ハマーショルド(Dag Hammarskjöld) 「道しるべ」

今朝(2018.3.7)の朝日新聞「天声人語」は,

故佐藤さとるさん(児童文学者)の逸話を紹介している。

原稿は万年筆で書きますか,それともサインペンやボールペンですか。

 …佐藤さとるさんは,そんな質問を受けたことがある。

 『消しゴムで書きます』と答えて,笑われたそうだ

▼推敲(すいこう)に推敲を重ねる佐藤さんからすれば,半ば本気だった。…」と。

この逸話を読んで,ダグ・ハマーショルド(Dag  Hammarskjöld)を思い浮かべる方は,

いらっしゃるであろうか。

私の尊敬する,ダグ・ハマーショルド(1905年7月29日 – 1961年9月18日,第2代・国際連合事務総長,スウェーデンの外交官)は,コンゴ動乱の停戦調停に赴く途上,飛行機事故のために非業の死を遂げたが,美しい<心の日記>を世に残した。

それが,鵜飼信成訳「道しるべ」(みすず書房)。私の愛読書の一つだ。

その日記の冒頭,Hammarskjöldは,「ベルティル・マルンベルク」(スウェーデンの詩人)のエピグラム(epigram)を引用している。

 

 抹消する手だけが
 正しいことばを書くことができる
            ベルティル・マルンベルク

 

 Hammarskjöldにいわせれば,「消しゴムで書きます」というのは甘っちょろい。
 自分の書き記した思想など,その全てを「消しゴムで消さざるを得ない」,
 「神とのかかわり合い」の中では,抹消(撤回)せざるを得ないレベルの未熟さなのだ。

 

「栄誉・権力・特権をめぐる闘争が繰り広げられている
 この瘴気(しょうき)のたちこめたジャングルから抜け出すには,
 道はひとつしかない。すなわち,われをわが手で作りあげたもろもろの
 障害物のさなかにあって,死を受けいれることである。」

(注:【瘴気】熱病を起こさせる山川の毒気。)

 

何たる謙虚さ。
アベ氏には,Hammarskjöldの「爪の垢」を煎じて飲んでもらいたいものだ。

Dag  Hammarskjöld