弁護士のブログBlog
脳神経外科領域の医療裁判で頻出する医療用語に
「硬膜(dura mater)」と「クモ膜(arachnoid mater)」がある。
昔、脳外領域の医療裁判で、W先生(当時の名大・脳外教授)の研究室をお訪ねしたしたとき、「脳単(ノウタン)」(河合良訓監修・原島広至著 2005)が置いてあったので、ボクもマネして購入し一部は読んだが…、先般、書棚を若干整理していたら、思いがけず、奥から出てきた。
「脳単(ノウタン)」によると、「dura mater(硬膜)」の語源は、ラテン語でdurus(硬い)、mater(マーテル;母)、arachnoid(蜘蛛)の語源は、ギリシャ語で、arachne(アラクネー;蜘蛛)+エイドス(~のような)。
アラクネーは、ギリシャ神話に登場する娘で、機織りの名人だったが、女神アテネーの嫉妬によって、蜘蛛にされたという。
オウィディウス『変身物語(上)』中村善也訳(岩波文庫)によると、
アラクネーは、機織りの名手で、その技術は機織りを司るアテネーを上回る、とのウワサを聞きつけたアテネーは怒りを覚えたが、彼女を諭すために老婆の姿を借りて「神々の怒りを買うことのないように。」と忠告した。ところが、アラクネーはそれを聞き入れずに神々との勝負を望んだ為、女神は正体を表してアラクネーと織物の勝負をすることになった。アテネーは自身がポセイドンとの勝負に勝ちアテナイの守護神に選ばれた物語をタペストリーに織り込んだのに対し、アラクネーはアテネーの父ゼウスの浮気物語を主題にその不実さを嘲ったタペストリーを織り上げた。だが、アテネーは、アラクネーのタペストリーの出来栄えに激怒し、そのタペストリーを破壊し、アラクネーの頭を殴打した。そして、この苦痛に耐えられなかったアラクネーは首を吊って縊死した。アテネーは自殺したアクネーを哀れみ魔法の草の汁を撒いて彼女を蜘蛛に変えた、とか。
ダンテの『神曲』「煉獄篇」では、「傲慢」の罪を戒める例として、下半身が蜘蛛に変じられたアラクネーを写した姿が山肌に彫刻されている。
目下、取り組んでいる医療裁判は、脊髄外科だが、ここでも、「硬膜(dura mater)」と「クモ膜(arachnoid mater)」が登場する。分かり易い解剖図を見つけた!
pia materは、軟膜。
クモ膜は半透明の膜で、後方からアプローチしていき、硬膜を切開してクモ膜に到達すると、その内側で脊髄・馬尾神経が脊髄液に浮かんでいるのが透けて見える、…てなことを手術書から読み解いて、術者の立場から、術式をシュミレートした上で、「術者は、手術の何処で失敗したか?」を解明していくのが、“ 医師から嫌がられつつ ”、 医療裁判を患者側で手掛ける弁護士の仕事です。