弁護士のブログBlog
どっと疲れる、「中断シンドローム」
- 2024-09-19
昨日のブログで、野口悠紀雄氏が「中断シンドローム(症候群)」という人間の「困った性癖」をなくすための「超」整理法を説いている旨の門野博元判事のエッセイを紹介した。ここに「中断シンドローム」とは、「仕事を中断したときに生ずる物忘れや資料紛失などによる能率の低下の諸症状」のことを指す。
私は自慢ではないが、整理能力が乏しい。
「記録棚に置いてあったはずの記録がない!」
「ココラあたりに置いてあったハズの資料がない!」
「アレッ?、定規はどこいった?」、「ホッチキスが消えた!」
などという事態に直面して、「どこだ!、どこだ?」と言って、うろたえつつ、ときにパニックに陥りつつ、貴重な時間を浪費してしまうことが少なくない。
にもかかわらず、今日は、褒められる一方で、如上のとおりであるが故に、終日、「持ち前の整理能力の欠如」に起因する、「中断シンドローム」のお陰で、緊張が走るとともに、力が抜け、もはや神経が弛緩状態になってしまった。話は、20年以上も前にさかのぼる?
今から20年以上も昔、知人の女性が寿退職した。
そして、私に、「先生、見てください。」といって、彼女の結婚式のときの写真を送ってくれた。「お色直し」の関係で、複数枚の写真がある。花嫁は綺麗に決まっているのだが、「なかなかハンサムな旦那でしょう。」というあたりの主張(自慢?)をしたかった、のかもしれない。このような写真をすぐに処分するわけにもいかないので、私としては、知人からもらった他の写真と同様に綴って、アルバムに収めてあった。
そして、今から約2年前、その彼女から、「先生、旦那が困っている件で法律相談にのってやってください。」との相談を受けた。法律相談に訪れた「彼女の旦那」は、某組織で、結構、出世していた。そこで、すかさず、私は、「これが、約20年以上も昔の、君の顔だろう?」といって、昔彼女からいただいていた、結婚式のときのツーショットを示すと、その旦那は顔を赤らめ、照れながら恐れ入った。
そして、今日、その旦那から依頼を受けた裁判の関係で、その旦那と打合せをした。
打合せが一段落し、雑談の時間になると、その旦那がいうに、「先生の整理能力はすごいですね。20年以上も昔の写真が、そそっと出てくるなんて、すごいです。妻に話すとびっくりして、縮こまっていましたよ。」と。
フツーはこのように褒められると、嬉しいものだが、今日の私は、朝から、それどころではなかった。実は、「大事なものを紛失してしまったのではないか?」といった絶望感にさいなまれていたのであった。
話は、昨日に遡る。
某大学医学部の教授らとの会食のとき、准教授に「天才」がいるということが話題となった。そこで、私は、その教授らに、「是非、私に、その『天才』を紹介してもらいたい。その彼に物理学(生体力学)の鑑定をお願いしたいと思う。」とお願いして、紹介してもらったのであるが、彼とのメール交信だけでは話が通じないので、私は、彼を食事に誘った。そして、昨日、彼と会食したのであるが、その直前、ひょっとと閃いたことがあった。「彼に鑑定の可否を検討してもらうためには、昔、某病院で行った『人体実験の画像データ』を彼に分析してもらってはどうか? 」と思ったのだ。
そのときに画像データはM病院でDVDに収録してもらって、某大学医学部の名誉教授から、送ってもらってあったので、探せば必ず出てくるはずだと直感し、上記「天才」との会食に出向く前に、そのDVDを探し始めたのだ。ところが、あるはずのところに「ない!」
「あったー!」とおもって、みつけたDVDをデッキに入れて再生しようとするのだが立ち上がらない。
「おかしいなぁ」と思いつつ、誘った会食に遅刻するわけにはいかないので、とりあえず、データの紛失・消失?のことは放念して、「天才」との会食に臨むことした。
そして、彼との昨日の会食は、「食事を味わう」のは二の次、三の次となり、とめどもなく相互に話がはじけ続けたところで、本題に入ると、鑑定の件は、やっぱり、というか「予感どおり!」というべきか、「人体実験をしたときの画像データを見た上で考えてみる。」とのことだった。その時、まさか「実は(その画像データ)なくしちゃったかもしれません。」とも言えず、「では、その画像データを先生の研究室に送らせていただきます。」と「安請け合い」をして、別れた。
このため、今日は、当然のことながら、朝から、「人体実験の画像データ」を収録してあるはずのDVDを探すことになる。今日の予定は、午後から上記の「知人女性の旦那」との打合せだけだ。
「やっぱり、これだ。このDVDに画像データ収録されているに違いない!」という気持ちで、昨日、見つけ出したDVDをデッキに入れて、何度も再生を試みるのであるが、再生できない。
しかたがないので、コンピュータ専門の知人の携帯に電話する。
「大事なデータが入っているはずのDVDが再生できない。困った。
デッキとの相性が悪いのだろうか?」
「そんなことはないでしょう。先生がお持ちの何か映画のDVDをセットして再生してみてください。再生できますか?」
「ちょっと、待っててね。今、再生してみるから。……、映画のDVDの方は再生できたよ。」
「だったら、デッキには問題がありません。DVDのデータの方の問題です。データの方が壊れて立ち上がらないのではないですか。そのようなことはよくある話ですよ。」
だと?
「困った!」
しかたないので、某大学医学部の名誉教授の携帯に電話して、
「先生、大変申し訳ありませんが、先生にご紹介いただいて、M病院で実施した、『あの人体実験』をやったときの画像データが再生できません。元の画像データが、M病院に残っていないか?、聞いていただくことはできないものでしょうか。」
「わかった。当時の病院長は、今は医療法人の理事長だが、付き合いがある。弟子の○○がM病院にいるし、M病院関係者に対しては、年に2回、○○を指導している。まだ画像データが残っていないか聞いてみてあげるよ。実験の日と、被験者(=患者)の名前を教えなさい。」といってくださった。
・・・といった次第で、「中断シンドローム」のせいで、午前中の執務時間をつぶしてしまった。
そして、午後、「気もそぞろに」「知人女性の旦那」と裁判の打合せをしていると、名誉教授から電話があった。
「M病院の理事長に相談したところ、いろいろ探してくれたそうだが、もう10年以上も前のことで、撮影機器も入れ替わっていて、当時の画像データは残っていないそうだ。ただ、画像データが残っている可能性があるDVDを送ってくれれば、画像データを再生できないか、調べてくれるそうだ。」
「ありがというございます!」
といって、ひとまず、電話を切った。
その後、「知人女性の旦那」と裁判の打合せを終え、その旦那からは、今の心境の私にとっては「嫌みになる」とはつゆ知らず、「先生の整理能力はすごいですね。20年以上の昔の写真が、そそっと出てくるなんて、すごいですね。」などという、前記の褒め殺しを受けて、事務所を退散してもらった。
そして、再び、M病院の理事長に、『画像データが残っている可能性があるDVD』を送り届ける前に、その他に、それらしいDVDは残っていないか?、パソコンのどこかに画像データを複製したのが残っていないないか?などと思いつつ、PCや記録の中を隈なく探している最中、ふと、あることに気付いた。「画像データが残っている可能性がある」と思い込んでいたDVDをよくみると、ある特徴がある。このような特徴のあるDVDには、そもそも「人体実験の画像データ」など入っているはずがない、ということに気付いたのだ。そこで、「コンピュータ専門の知人の携帯」に再び電話して、その特徴について尋ねてみると、案の定、「画像データが残っている可能性はない」と断定された。
万事休すだ。
しかたがない。名誉教授に頭をさげ、M病院の理事長に頼み込んでもらって、もう一度、M病院で、人員を集めて「人体実験」をやらせてもらうしかない…と、思った。
うなだれるように、執務机に腰掛け、その前方に、様々な記録が雑然の積まれている、ソファーテーブルにボンヤリと目をやると…あれっ??
DVDを収納できるポケットのついた、ファイルが、雑然とした資料の中に置かれているのが目に入った。ひょっと?、と思い手に取ると、「こ、これでは?」というDVDがファイルに納めてあるではないか!? ケースの上に、「M病院・画像データ」と書かれている。
「あった-!」と思い、早速にデッキに入れて、再生を試みると、
「出たー!」、やれやれ。
思わず、ほっと胸をなで下ろした。
早速、名誉教授に電話して、ご心配かけたことを詫び、
「天才」にも、「画像データは、失われたかもしれないと思いましたところ、何とか『執念で』に見つけ出しました。今日、レターパックで送らせてもらいます。」とメールをした。「『人体実験の画像データ』はひょっとして失われているかもしれない。」と彼には既に予防線を張ってあったのだ。やれやれ。
てなわけで、重篤な「中断シンドローム」のせいで、今日は、殆ど終日、貴重な時間をつぶしてしまった。明日からは、整理整頓に心がけようと思うのだが、…
やっぱり、野口悠紀雄著『続「超」整理法・時間編―タイム・マネジメントの新技法』(中公新書)」を先に注文して読むとするか、それとも、そんな時間があるなら、少しでも事務所の整理整頓をするか? 悩ましいところだ。