弁護士のブログBlog
「時効待ち」はお勧めできないか?
- 2024-09-29
曽我陽一さんという仙台弁護士会の弁護士が、ご自身の事務所(藤田・曽我 法律事務所)のホームページ上の「弁護士コラム」で、「時効待ちはお勧めできない」という趣旨のことを書かれている。
曰く「貸金業者からの借入債務は,5年で消滅時効にかかります。債務整理の方針の一つとして,債務を放置して消滅時効の完成を待つ方法を,一般に「時効待ち」といいます。時効待ちの方針を取ることは,倫理的にはともかく,法律的に禁止されてはいません。しかし,……訴訟になれば,支払いを延滞したことによる遅延損害金も上乗せされた敗訴判決を受ける公算が高いというリスクもあります。」と。
確かに、曽我弁護士のご指摘のとおりである。
しかしながら、曽我弁護士がいうところの「時効待ち」は、その前提として「貸金業者からの借入債務」を念頭においている。では、「貸金業者からの借入債務」以外の債務はどうか?、特に「貸金業者」の場合は、業務で債権管理を行っているので、業務上の管理下にある債権を消滅時効で消滅させてしまう、といったヘマを行う可能性が乏しいが、相手が一般民間人や、多忙な弁護士であれば、債権請求を失念している可能性が十分にあり、まもなく消滅時効にかかるという場合はどうか?
実は、先般、「時効待ち」をやったことがある。
静岡県で起きた交通事故の被害を訴えるAにB弁護士(静岡弁護士会)がついて、訴えどおりであれば数千万にも及ぶことが見込まれる損害賠償請求を受けた方がいた。その件で、加害者とされた方が加入していた保険会社からの紹介で、その方の弁護を数年前に引き受けたのであるが(ただし、医学的な観点から疑問があり、偽装被害の疑いがあった。)、後遺障害の症状固定日から「まもなく3年」ともなろうとしていたにもかかわらず、B弁護士が動く気配を感じなかったからだ。そして、私の方から、保険会社の担当者に電話して、もう「あと1ヶ月」を切ったから、「そっと、ほかっておこうね。」と耳打ちしておいた。
やがて、あっという間に一ヶ月が経過し、3年の消滅時効期間を切った!?
「しめしめ」と思いきや、当時、司法修習前の息子から注意を受けた。
「だめだよ、お父さん。不法行為でも、人身被害の場合は、民法改正によって、消滅時効期間が5年に延長になったからね(民法742条の2)。附則35条2項の反対解釈で、民法改正前の人身被害にも改正法が適用される。」と。
その後、(私と同様の誤解をしていたとみられる)B弁護士から、「時効期間の延長を求める」といった強気の書面が届いた。そこで、私は、B弁護士に電話して、「B先生、依頼者の損害賠償請求権を時効消滅させてしまった。どうしよう、と困惑されていたでしょう?」と申し向けると、図星だった。このため、私は、民法改正によって、まだ時効消滅していない旨をB弁護士に教示してさしあげた。
その後、約2年して、B弁護士から…??という内容の訴状が届いた。
若干懲戒ものの臭いがしたが、精神に変調をきたしていたようで、その原因として、「袴田事件弁護団に入っていたことで、(かつての)裁判所のあまりに不条理・理不尽な認定にショックを受けた…」などとも書かれていたので、「大目に」みてやることにした。そして、請求額(数千万円)に見合わぬ僅少額で、裁判上の和解に応じてやった次第。
さて、本ブログの冒頭で、曽我陽一弁護士(藤田・曽我 法律事務所)の「弁護士コラム」に言及した。なぜ、私が、この「弁護士コラム」に行き着いたのか?ということについて、別のブログで詳細を紹介したい。
実は、曽我弁護士が事務所を共同経営されていた、藤田紀子弁護士は、藤田宙靖(ときやす)前最高裁判事のご婦人であり、勿論、知り合いではないが、「今、どうされているのか?」と、ふと気になったことがあり、アクセスしてみたら、昨年、お亡くなりになっていたことに気付いた次第。遅ればせながら、ご冥福を祈ります。