北口雅章法律事務所

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旧ブリジストン美術館の「贋作・円空仏」

今日、円空学会から来年1月1日発行の『円空学会だより』が届いた。
小島理事長の〈年頭所感〉で、今年物議を醸した公立美術館による、「贋作・円空仏の出展問題」に対し、円空学会として、厳正な対応を求めることの必要性が説かれていた。全く異論のないところだ。

『円空学会だより』に寄稿されていたS水・常任理事の論稿「アーティゾン美術館が円空仏の贋作を展示していた件」では、今年7月~10月、アーティゾン美術館(旧ブリジストン美術館)で開催された美術展『空間と作品』で、円空仏が2体出展されていたところ、いずれも偽作(贋作)だったという。

ところで、上記論稿によると、小島理事長は、アーティゾン美術館に対しては、「私立の美術館につき申し入れにくい」との理由で、「贋作」であることを理由とした、是正措置の申し入れをなされなかった、とのことである。しかしながら、たとえ公立美術館でなくとも、アーティゾン美術館(旧ブリジストン美術館)は、美術史的にも価値の高い著名なコレクションをもつ、日本有数の美術館であり、贋作を真作と偽ること(それを放任すること)の弊害(学芸員の能力不足である。)社会公共(不特定・多数人)に与える悪影響は到底看過できるものではない。しかも、同美術館の経営母体は「公益財団法人」であって、税法上の優遇措置(法人税が非課税になる等)を得ているものと考えられることに照らし、円空学会としても、公益的見地から、断固として抗議すべきではないか、と思料される。

念のため、アーティゾン美術館(旧ブリジストン美術館)のホームページを開けると、恥ずかしげもなく、贋作・円空仏が掲載されている。

 

 見る方が見れば、見るからに失笑ものであるが、
 上掲「円空仏モドキ」の何処が贋作といえるのか、私見を述べておきたい。

 贋作者は、十一面観音を模擬したつもりかもしれないが、あまりに無教養すぎるこのような贋作を「真作」と思い込んだ「学芸員」も猛省すべきであろう。)。

第1に、十一面観音の像容は、特殊な例外を除き、左手に「水瓶(すいびょう)」を持ち、右手は、掌を正面に向ける与願印であることが、「基本中の基本」である。管見ではあるが、上掲写真のごとく、あんなデカデカとした「宝珠(ほうじゅ)」を持った十一面観音など、見たことがない。十一面観音は、「水の女神」なのだ。

第2に,上掲贋作は、側腹部の衣紋の彫りがいい加減である上、台座がデタラメである。円空の十一面観音は、基本、蓮華台の上に立ち、その下に岩座が置かれる

上掲・左は、埼玉県蓮田市内の個人蔵、上記右は、高賀神社(岐阜県関市洞戸)所蔵

 

第3に、上掲ホームページの写真は不明瞭なので、断定はできないが、10個の化仏(変化面)についても、円空らしく丁寧に彫られているようには見えない。10個の化仏の配置の特徴に照らせば、S水・常任理事も指摘されているとおり、誰が見ても、前掲・贋作は、高賀神社(岐阜県関市洞戸)所蔵の十一面観音の「猿真似」に過ぎない。このような「たちの悪い」贋作は、やはり非難の意を込めて「偽作」といい、「模作」という言葉を使うべきではない、と思った。

 

春照・太平観音堂(滋賀県米原市)の十一面観音

上掲・十一面観音は、円空・老成期(58歳時)の傑作であるが、作品から醸し出される重厚感は、インチキ贋作者には、到底足下にも及ばないレベルのものだ。