北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

続⑶ 「木曽川・長良川等連続リンチ殺人事件」後のYoshiくん

昨日(6月22日(金曜)),私は,
Yoshiくんの「慰問」のため,名古屋拘置所を訪問した。
私は,Yoshiくんに会って,Yoshiくんのために,「殆ど無意味と知りつつも」私が「唯一」できることを実行した旨の報告をしたかったからだ。

 確定死刑囚のために弁護士ができることは限られる。多くの弁護士が確定死刑囚の死刑回避のために考えることといえば,具体的には,①再審請求と②死刑廃止運動であろう。が,Yoshiくんの場合,①刑事記録の全てを他の弁護士に引き継いでいるから再審請求の手立てはないし,②本件刑事事件で犯行時少年らを死刑にすることは相当でないと考えるが,私自身は死刑廃止論者ではない。 ①②以外に弁護士ができることは,ただ一つ。
 後述する。

 はたして,名古屋拘置所は,親族・身元引受人・弁護人等の特別関係のない私に,
Yoshiくんとの面会を認めてくれるであろか?
 午後の面会受付開始時刻12:45直前に,私は,拘置所に出向いた。受付窓口は閉まっていたが,ガラス窓ごしに刑務官が,私の姿(クールビズのワイシャツである)を見るや,「オーラ」を感じたのか,ガラス窓を開けるや,「弁護士さんですか? バッチ見せてください。」と声をかけられた。そして,バッチを示すと,「どーぞ,2階にあがってください。」といった。
 が,面会相手が,確定死刑囚のYoshiくんと知ると,途端に,職員の対応は,慎重にな
「面会申出書」には,「続柄欄」に元代理人,「職業」に弁護士と記載したが,面会目的欄は,「裁判上の件」の□にレ点をつけ,「□その他(   )」には,「心情の安定化」と記入した。

 窓口の職員は,「ちょっと,待ってください。上司と相談します。」と言って,席を外した。
 そして,しばらくした後,再び戻ってきて, 「15分間の面会を認めます。ただし,『一般面会』でお願いします。」とのことであった。(『一般面会』というのは,『刑事弁護人と被疑者・被告人との接見』とは異なり,刑務官が立ち会う,という趣旨だ。)

面会室に現れたYoshiくんは,満面の笑みをうかべて,元気そうだった。
時間は僅か15分。彼からも話したいことはあったろうが,
再審請求の状況を聞き取った後は,
私の方の話を聞きたいようだったので,私の方から,しゃべりまくった。

「国家賠償の判決書を送ってくれてありがとう。」「永山の死刑が執行されたのは48歳のときだ。君はまだ42歳のはずだから,まだ6年は大丈夫だ。」,「君たちよりも,オウム真理教の連中の方が先だから,まだまだ,黄色信号はともっていない。」などと,何気ない雑談の後,「大阪事件の対応を誤ったかもしれない。」といって,死刑判決に寄与したことを詫びた。

その上で,彼に告げた。

ボクが君のためにできることは,一つしかない。
 殆ど効果はないと思うが,一応,念のため,来年4月の『天皇退位』と,
来年5月の『新天皇即位』に際して,『恩赦』があるかもしれないので,
中央更生保護委員会・委員長に対し,君とAのために,請願者を出しておいた。」と。

 

ちなみに,私からの誓願の内容・理由は,後記のとおり。

追記:請願書を発送したところ,平成30年6月26日で,法務省保護局総務課から封筒が届いた。何か重大な手続的不備があったかな?と思って封筒をあけると,案の定,恥ずかしながら,個別恩赦の申出は,「死刑確定者」であっても,被収容者本人から「刑事施設の長に対し」減軽の出願をしなければならない(恩赦法施行規則第8条)とのことで,「出願の詳細については,御本人が刑事施設にて教示を受けることをお勧めします。」との教示が記載されていた。既に送った請願書とその添付資料を一式,Aくんと,Yoshiくんに送らねば・・・。

 

            記

 

請  願  書
              平成30年6月20日  
中央更生保護審査会
委員長 倉吉 敬 様

                       請願者 弁護士   北口雅章
                                電話:…  FAX:…

 

 請願法2条に基づいて,下記のとおり請願します。
 貴審査会におかれては,同法5条の趣旨に沿って,受理の上,誠実に検討・処理を賜りたく,この段,伏してお願い申し上げます。

                              記

第1 請願の趣旨
     来る平成31年4月の「天皇退位」及び同年5月の「新天皇即位」に際して,
    最高裁判所平成23年3月10日第一小法廷判決(平成17(あ)2358号事件)で 死刑の量刑が維持された,死刑確定者A及び同Cにつき,いずれも個別恩赦にて,無期懲役に減刑していただきたい。

第2 理由
     小職は,弁護士(司法修習第44期)ですが,死刑確定者Aについては,被疑者段階から付き添い,刑事確定裁判・第1審では,同人の国選弁護人を(共同)受任するとともに,死刑確定者Cについては,同人が提起した複数の民事訴訟(名古屋高裁平成12年6月29日[少年事件に係る推知報道の適法性]判例時報1736号35頁,名古屋高裁平成22年3月19日判決[週刊誌によるプライバシー侵害]判例時報2081号20頁以下等)の訴訟代理を受任した関係で,一定の交友関係をもっております。
     しかして,小職は,母校での講演会(演題「裁判は面白い-ポジティブ思考の勧め」)で,倉吉敬・前東京高裁長官が「法曹に必要な資質」として,「何かをおかしいと感じることのできる感受性」「おかしいと感じたときにそれに積極的に対応することのできる柔軟性」が求められる旨を説かれたこと(東京大学法学部「NEWSLETTER」)に感銘を受け,かかる信条(心情)を抱懐されている現中央更生保護審査会委員長であればこそ,本書添付・別紙の各個別事情をもつ上記各死刑確定者に対する死刑執行は,「おかしい」と考える小職の感受性・本対応に同調していただけるものと信じ,一縷の望みをかけて,請願に至った次第であります。

 

(別紙1)死刑確定者・Aについて

1.本件刑事事件のうち「木曽川・長良川連続リンチ殺傷事件」は,少年達による 集団犯罪特有の集団的心理の機制のもとに支配されて敢行された犯行である。
   確定審第1審で証拠提出されている,日本福祉大学の加藤幸雄教授(家庭裁判所調査官の経歴があり,後に学長。)の犯罪心理鑑定書【添付資料1】によれば,上記いずれの案件でも,Aを含む少年達には殺意は認められず,彼らは,集団犯罪特有の心理機制に抗することができなかった。この意味で,一連の上記殺傷事件は,未成熟な少年達による少年事件特有の犯罪である。
2.殺人事件(「大阪事件」)を自白した犯行時少年に対し,自首減軽の要件があ
  ったにもかかわらず,それを認めず,刑事弁護人の説諭・指導に従って自白した事実(「大阪事件」)を逆手にとって,死刑を科すことは「背理」である。
   具体的に敷衍すると,次のとおりである。
   小職は,いわゆる「木曽川・長良川連続リンチ殺傷事件」の主犯格として,逮捕・勾留されていたA(当時19歳の少年,後に死刑確定。以下「A」という。)につき,起訴前弁護活動に従事していた同期の同僚弁護士が,Aから,捜査機関に未発覚の殺人事件(いわゆる「大阪事件」)について自白すべきか否か逡巡している旨(その理由は,刑が重くなることと,共犯者らを巻き添えにすることにあった。)の相談を受けたことを踏まえて,刑事弁護人として,当該犯行を自白をさせるか否かについて,同弁護士から相談を受けた。小職らは,Aらには,勾留中の被疑事実(「木曽川・長良川連続リンチ殺傷事件」)について,その主観においても,四囲の客観的状況からも,殺意は認めがたい(傷害致死にとどまる。)との判断のもと,Aの真の反省と更生を願って,別件「大阪事件」については,― 殺意は否定したがたいものの―,「自首減軽」の適用を見込んで,― 社会正義の観点からも ― 「(大阪事件の)被害者と,その遺族のことを考えろ。」と被疑者少年を説諭し,その自白を勧奨し自白に至らせた。ところが,かかる弁護人の弁護活動(自白の勧奨)が,裏目にでて,裁判所は,「大阪事件」について「自首減軽」を認めず,Aに対し死刑を宣告した。
   しかしながら,いくら「黙秘権」が憲法上の権利として保障されているとはいえ,可塑性の高い犯行時少年にとっては,「黙秘権」を放棄させたうえで,刑事制裁のもと,自らの罪状を自覚・反省・悔悟させることこそが彼らの真の更生のために重要であると考え,― 社会正義に配慮して ― 「自首減軽」の恩典に期待して,自白を勧奨し,事実上小林をして重大犯罪の自白に導いた刑事弁護人の弁護活動が,かえって「仇」となり,犯行時少年の生命を奪うことになったのでは,当職らが刑事弁護士として,最低・最悪の弁護をしたという「背理」が生じ,著しく「正義」に反するものと考える。【添付資料2】参照
   そして,Aの場合,当該「背理」ないし不条理を是正するには,「恩赦」にすがるしかないものと考える。
3.劣悪な生育環境のもとで育ち,本件各犯行時の精神年齢は,18歳に満たなかった(少年法51条1項,児童の権利に関する条約37条(a)参照)。
 (プライバシー情報につき,略)
4.なお,Aも,現在はキリスト教の洗礼を受け,被害者の冥福を祈る信仰生活を送っている。

 

(別紙2)死刑確定者・Cについて

1.刑事事件全体で,芳我には「殺意がなく」,客観的にみて,殺害に至る程度の暴行を振るったのは,長良川事件で犠牲となった1名に対する暴力だけである。
   Aと同様,加藤幸雄教授の犯罪心理鑑定によれば,いずれの案件も,少年達による集団犯罪特有の集団的心理の機制のもとに支配されて敢行された。殊に,Cは,一番の「格下」で,兄貴分達の犯行中も,犯罪集団から離隔する努力をしており,客観的にみて,殺害に至る程度の暴行を振るったのは,長良川事件で犠牲となった1名に対する「私怨代償的」暴力だけである。【添付資料1】参照。
2.生育環境の劣悪さは,尋常ではなく,本件各犯行時の精神年齢は,18歳に満たなかった(少年法51条1項,児童の権利に関する条約37条(a)参照)。
   加藤教授による,元家庭裁判所調査官ならではの綿密な環境調査に基づく犯罪心理鑑定書では,Cの「生育史的人格理解」として,彼が三歳のときに両親が離婚し,母親はパチンコに明け暮れ,子どもを一部残して,情夫と家出したこと,その残された芳我が,妹と弟と三人でカップラーメンを分け,猫のえさで飢えをしのんでいたこと,小学校時代は,服が汚いといっていじめられ,シンナーを吸引するにいったこと等の育児環境が報告されている。【添付資料1】参照。
   (ブログ注:当該プライバシー情報は,既に新聞等で公表されている。)
   本件各犯行は,偶々Cが18歳に至ってまもなくの時期であったが,彼の実親らが,彼から「教育を受ける権利」(憲法26条)を奪い,その精神的発育を阻んできたといっても過言ではない。【添付資料1】,【添付資料3】参照
3.Cは,キリスト教の洗礼を受け,被害者の冥福を祈る信仰生活を送るとともに,摂食障害などに悩む受刑者らを文通で励まし続け,各種団体に贖罪寄付を続けている。
   Cは,犯罪行為を行った元暴力団組員が改悛して牧師・伝道師として更生した旨の内容が書かれた書籍等に感銘を受けるなどしてキリスト教に入信し,プロテスタント系日本聖公会から洗礼を受けるなどして,日々,被害者の冥福を祈る信仰生活を送っている。
   宗教関係者のなかでは,Cの真摯な信仰活動に共鳴し,これを支援する目的のもと,「YOSHIくん(C)を支える会」を組織し,機関誌「プシキオン」を定期的に発行するなどしていること(【添付資料4】)は,Cの現在の状況をよく物語っている。今般,小職は,Cから,平成30年5月7日付けで書簡(【添付資料5】)を受領したが,現在は,「自己契約作業」に励むことで贖罪寄附金を捻出し,犯罪被害者の遺族,及び各種NPO法人に送金しているとのことであった(送金先は,「国際子ども学校ELCC」[名古屋],「社会福祉法人 カリヨンこどもセンター」[東京]等であることが【添付資料4】から窺われる)。なお,死刑判決確定後は,名古屋拘置所長の裁量的判断により,Cと小職ら弁護士との交信は途絶されていたが,近時,Cが提起した複数の訴訟で,名古屋高裁も,当該発受不許可処分の違法(刑事収容施設法139条2項違反)を認め(名古屋高判平成29年3月9日,同平成30年5月18日等),Cの名古屋拘置所内での処遇は改善傾向にあるようである。

終わりに
 『物に定まれる性なし。人,何ぞ常に悪ならん。縁に遭ふときはすなはち庸愚も大道を庶幾(こひねが)ふ』(「秘蔵宝鑰」巻上・第二愚童持斎心より)
  [口語訳]「物には決まった性質はない。どうして人は常に悪人であることがあろうか。機縁にめぐりあえば,なみの物でもすばらしい道を願う。」(弘法大師・空海全集・第2巻[筑摩書房])。
   これは,淳和天皇の命により,空海から同天皇に上進された「秘蔵宝鑰(ほうやく)」の中の言葉です。今般,天皇陛下の「国民に対する慈悲」である「個別恩赦」の対象を検討する上で,最も相応しい指導理念と考えますので,何卒,ご一考賜りたい。
                                                                以 上