北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

「作家の娘たち,父を語る」を読んで *追記あり

文藝春秋が発行する『オール讀物』2018年11月号
が書店に平積みされており,見ると,
「宮部みゆきの世界」の「特集」に加え,
「藤沢周平・特別座談会」と称して
「檀ふみ×阿川佐和子×遠藤展子」の三女史による,
「作家の娘たち父を語る」という読み物が掲載されているのが目にとまった。

立ち読みで済ませてもよかったのだが,
それほど時間もなかったので,買ってから読むことにした。

「檀ふみ」さんは,いわずと知れた『火宅の人』檀一雄センセイの長女,
「阿川佐和子」さんも,いわずと知れた阿川弘之センセイの長女,
「遠藤展子」さんは,藤沢周平センセイの長女とのことである。

「壇ふみ」は,われわれの世代では,昔,NHKの『連想ゲーム』にレギュラー出演していた才媛を絵に描いたような美貌の女優だが,最近,テレビを見なくなったせいか,とんとみかけなくなった。が,正直なところ,私は,壇一雄センセイの『火宅の人』は読んだことがない。これに対し,「阿川佐和子」はちょくちょく見かけるし,阿川弘之センセイの作品は,小説『雲の墓標』が課題図書だったか何かで読んだ記憶があり,小説『山本五十六』も,父の蔵書の中にあったので,読んだ記憶がある。
他方,藤沢周平先生の著作物は,いつかは読みたい!,法律家としては,絶対に読まねばならぬ!,と思いつつも,情けないことに,未だ一冊も読めていない。何故,われわれ法律家が読む必要があるのか?
 と,聞かれて,ピン!ときた貴方はエラい。
 私が尊敬する法律家の一人,原田國雄先生(元東京高裁刑事部・部総括判事)が,藤沢先生の時代小説を激賞しているからだ。
曰く「毎日新聞読書欄の『この三冊』というコラムで,私は,“裁き”と文学をテーマに,藤沢周平の『海鳴り』,『玄鳥』,『蝉しぐれ』を挙げた。この作家の作品は,右の三冊に限らず,全集を何度も読み返している。とくに,現役の裁判官時代は,大きな事件の公判の前日などは,そのどれかを静かに読むと,心が浄化され,落ち着いた心境になる。」
判決を書くときにも,その短編小説を一読すると,自分も名文が書けるような気になる。決して,そうはならないとはいえ,すがすがしい意欲が湧いてくるのも事実だ。『玄鳥』は,そのうちでも最高傑作であると確信する。」と(原田國雄『裁判の非情と人情』岩波新書)。

てなわけで,上記三女史の対談は,三者三様に,父親の娘に対する愛情が滲み出ており,おもしろかった。藤沢先生の長女の溺愛ぶりは,他の約2名とは,やや異質であったが(一人娘で,幼少時に実母を亡くていることが大きいようだ。),他の約2名は,男兄弟にめぐまれ(壇ふみは,「兄が三人」,阿川佐和子は,兄と弟),父親のハチャメチャぶりは,笑わせてくれる。

でも,壇一雄センセイの「ドジョウ事件」もなかなかのものだが,
やはり,阿川弘之センセイの,子どもの名付け方のエピソードの方が,一枚上手のような気がする。

佐和子氏曰く(要約すると)「父は,昭和26年,第1子の出産を控え,夫人の入院先病院に出向く途上,今度生まれてくる子は,女の子に違いないと勝手に思い込み,師と仰ぐ志賀直哉先生の『暗夜行路』に登場する『直子』と名付けようと決めていた。ところが,第1子は,(佐和子氏の兄)男の子だったため,考え直すこととなったが,偶々,自転車で通りかかった青山墓地の近くに『南尚之墓』と書かれた立派な墓石があったので,兄は『尚之』と名付けられた。『直』も『尚』も発音は同じで,自分の名前と同じく『之』も字も入っているからだ。その後に生まれた長女は,『南尚之墓』と書かれ墓の隣に『佐和子』と書かれた墓があったため,『佐和子』と名付けた。」らしい。

でも,よくよく考えると本当かなあ??? ちょっと,ウソくさいなぁ・・・

 

原田國雄先生がブログに登場した以上,
同元判事が,ある無罪判決を書かれたことで,『巨乳判事』と呼ばれていることを紹介せねばなるまい。

*追記

原田判事を『巨乳判事』といった,御本人曰く「ありがたくないネーミング」で,からかったのは同判事の高校の同級生だそうで,同判事が自ら「巨乳被告人事件」と命名された,有名な無罪判決をかかれたことに由来する。すなわち,「巨乳タレント」で有名な某被告人が,交際相手のマンションの玄関出入口ドアを数回足蹴にして,破損させたという器物損壊事件で起訴された。そして,第1審の有罪判決を,原田コート(控訴審)が覆して無罪にしたという事件で,被告人とされた「巨乳タレント」がその後,マスコミに登場して原田判事を激賞したことで有名になったらしい。争点となったのは,その巨乳タレントが,ドアの「ブラインド部分」をくぐり抜けられた否かが争点となり,弁護人のドア模型による実験の検証請求を非公開で原田判事が採用し,くぐり抜けは,巨乳ゆえに無理だと判断し,その反面で「くぐり抜けるのを目撃した。」という第1審の検察側・目撃証言の信用性を否定したというものだ。このとき無罪判決を勝ち取ったのは,アノ有名な「今村核」弁護士で,裁判長が検証を採用するといった異例の措置は,漫画『イチケイのカラス』のモデルになったか,ヒントにはなったものと想像される(詳細は,原田國雄著『逆転無罪の事実認定』勁草書房を参照されたい。)。

原田國男判事といえば,昔,親友の刑法学者(現・某国立系大学刑法教授)から漏れ聞いたエピソードとして,山口厚・現最高裁判事(当時,東京大学法学部・刑法教授)をからかったことがあったらしい。山口・当時東大教授が,刑法の新しい教科書を書かれたとき,刑法学会の席で,山口教授に対し,「今回,君が書かれた教科書は,実によく出来ているねえ。」と誉められた,というのだ。で,山口教授が,先輩格の原田判事に対して「何故ですか?」と聞き返したところ,原田判事は,涼しい顔をして,「学説が実に上手く整理されていて,君の学説が書かれていないからだ。」と答えられたそうだ。何となく,人柄を彷彿とさせるエピソードではないか。