北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

「訴訟上の信義則」は守られたか?

私のブログの読者の多くは,同業者か,依頼者層かと思われるが,時偶ではあるが,法科大学院生がアクセスしてきているな,と思われることがある。
何故かというと,「訴訟上の信義則」とか,「日光太郎杉事件のこと」とかマニアックな法律用語の表題をつけて投稿したブログに,時々,アクセスしてくる読者がいるからで,このような表題に食いついてくるのは,おそらくは法科大学院生くらいであろう。逆に,「訴訟上の信義則」とか,「日光太郎杉事件」というキーワードで,ネット検索をかけると,いつのまにか私のブログが上位にきていることに気づく。
 さて,私が「訴訟上の信義則」との表題をつけ,「裁判所も『信義則』は守るべきだ!」と主張した訴訟事案の結末はどうだったか?気になっている読者もいるかもしれないので,若干,後日談を含め,事件処理の概要を書き込んでおく。
前回のブログ「訴訟上の信義則」を読んでいない方は,「訴訟上の信義則」×「弁護士ブログ」などを検索キーワードとして検索して見付けてもらい,これを読んでから,以下を読んでいただいた方が分かりよいかもしれないが,このブログで扱った訴訟事案は,いわゆる「パワハラ事案」。私の依頼者(原告)は,パワハラ被害にあった女性社員で,相手方(被告)は,知る人ぞ知る「公益財団法人」であった。

ある日(H27.11.4),兄弁の“眞ちゃん”からお電話をいただいた。「ボクの知人(女性)が,お嬢さんのパワハラ被害の関係で,今,お嬢さんを連れて,母子ともども相談にみえているのだが,“キタちゃん”の方で,相談にのってやってくれないか。実は,そのお嬢さんの勤務先は,公益財団法人で,そこの理事長がボクの知り合いなんで(利益相反になるから),ボクは受けられない。ボクの知り合いで,一番,『当たりが強い』弁護士をご希望とのことなので,“キタちゃん”を紹介してもいいか。」と。
兄弁からの「ご指名」なので,当然,受任することになるし,負けるわけにはいかない。私は,早速,そのお嬢さん(以下「A」)から聞き取り調査を行ったところ,「これはエゲツない!,リッパな“パワハラ”だ!。」と思われたエピソードが幾多も認められた。

Aが,相手方の財団法人に就職後,4か月の試用期間を経て,おかしいと思いつつも,正社員となり,正社員として2か月目に入ったときのことだ。「ある出来事」を切っ掛けに「パワハラ」は過激化し,エスカレートしていった。主たる加害者は,直属の上司約2名(BC姉妹)。相手方は,公益財団法人だが,実情は,小規模で閉鎖的な同族財団で,A以外は全て「身内」であった。

パワハラと認められたエピソードを,29項目に「厳選」し,それぞれ,日時・場所・方法等を手短にまとめたうえで一覧表を作成し,かつ,人事院監修「パワー・ハラスメント防止ハンドブック」及び,厚生労働省「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキンググループ報告」の各行為類型に準拠した類型を示し,自称「パワハラ目録」として,訴状に添付し,提訴に踏み切ることにした。
実は,相談にみえた当時,Aは,勤務先のB法人を休職中で,私の前でも,ゴホッ,ゴホッ・・・と咳(せき)が止まらず,話す方も,聞く方も,大変だった。医学的には,「心因性咳嗽(がいそう)」と呼ばれる症状で,明らかにパワハラを受けたことで,心理的な負荷が過重にかかったことが原因だと思われた。

例えば,Aが,どのような「パワハラ」を受けていたか?

若干,例示すると,次のとおり。

パワハラが激化する切っ掛けとなったのは,いわゆる「無断欠勤事件」だった。

Aは,とある日(勤務先の休日),大学時代の恩師の訃報に接した。そこで,当日(休日)の通夜に出席したが,その翌日は,葬儀に出席すべく忌引きの連絡を入れようとしたが,偶々休日だったために,勤務先の電話では連絡がつかず,Bの携帯電話に三度かけたが,Bは出なかった(ブログ主の注:後に,Bは,「自分の『私用の』携帯電話に,Aの電話番号を登録していなかったので,誰からの電話かわからず,出なかった。」と弁明したが,そりゃ,アンタ=Bの落ち度でしょう!!)。

そこで,Aは,『有給休暇のお願い』と題するBC宛のメールを勤務先のメールアドレスに送信し,「携帯電話で連絡がつかなかったので,恩師の葬儀参列のため,明日(○日),有給休暇にしていただきたい。明朝,改めてお電話をさせていただい。」との趣旨の連絡をとった。ところが,葬儀の当日,AからBへの電話が遅延している間に,Bの方からAに電話があり,「電話連絡してこなかったので,今日の休みは無断欠勤に当たります。これから出勤するのであれば遅刻となります。」との連絡があった。そして,Aが葬儀終了後,あわてて,葬儀場から職場へ,喪服のまま自動車で直行・出勤すると,BがAに言った。「信頼関係が全て崩れちゃったなって思ってるんですよ。」,「昨日のメールの時点でも,社会人ですよね。仕事があるんですから,ましてや3人しかいない職場で仕事があるのお葬儀に行きたいっていうのは,必ず本人と我々上司に話して,了解を得ないとできないですよ。・・・社会人としてどうなのかな,っていうのが,感覚が違いすぎぎて。ここのルールやペースと違う。正直,Aさんと働いていくのが難しいと思っています。やっぱり,そういう感覚とかって,もう埋めようもないものだと思うんですよ。」,「とにかく今は,信頼関係ゼロです。」,「そこの自覚をはっきりもってほしい。そこのセンスが合わない。」等々さんざん嫌みをいわれて,Aは,始末書を書かされていた。

私は,このエピソードを聞いただけで,寒気がしたが,このような嫌がらせが,これ以後も,延々と続く。

例えば,CからAに向けられた発言を例示すると,次のとおり。Aが作成を指示された業務文書をCに提出すると,Cは,「これでは駄目ですね。」と答えた上,「あなたはここの職員としてふさわしくないと言わざるを得ない。」「もう信頼関係がない以上,あなたにお願いできる仕事っていうのはなくなってしまうので,これからのことについては,またちょっと□長を交えてお話しましょう。」「AさんにはAさんにふさわしい仕事。まぁ,ここではない場所でね。あると思うんです。なので,申し訳ないけれども,『ここでAさんにお願いする仕事がありませんよ。』という話なんですけれども。」

一事が万事である。

このような労働事件は,名古屋地裁の場合,労働事件集中部(民事1部)に配点される。
ところが,第1審裁判官は,私に対し,強く和解を勧めてきた。私の訴状は,詳細を極め,訴状添付の「パワハラ目録」も充実していた。裁判官が真面目に判決を書けば,相当なエネルギーを消耗することが目に見えていた。私は,Aの了解のもと,相手方財団の方が,Aへの仕打ちを「パワハラ」と認め,陳謝するのであれば,和解してもよい,と申し入れたが,相手方の方は,陳謝を頑なに拒否した。そこで,第1審裁判官は,金銭的解決を懇請してきたが,裁判官が提示した金額は,「そんな,はしたカネで応じられるか!!」というレベルの金額であった。
かくて,第1審判決に至ったが,結果は,前記ブログのとおり敗訴であった。
第1審判決は,裁判官の和解提示金額からある程度は予想されていたし,実は,弁論終結後にも,裁判官から直接事務所に電話があり,「金額を○○万円につりあげますので,何とか和解に応じてもらえませんか。でないと,先生の方が負けますよ。」という脅し半分・泣き落とし半分和解打診があった。もちろん,そのような条件での和解については,応諾を固辞した。

私は,「本件は,お金の問題ではない。人間としての『尊厳』の問題だ!!」という考えであり,このような私のスタンスについては,もとよりAの賛同を得ていた。

第1審判決の要旨は,私が,「パワハラ目録」で摘示した諸事実は,いずれも「Aに対する職務上の注意や指導として,社会通念上許容し得る限度を超えた違法不当なものであったとまで認めることはできない。」というものであった。

これをみて,私は,私とこの裁判官とでは,「人権感覚が違うのだ!!」と思った。

実は,Aは,「無断欠勤事件」の後からは,上司からの叱責・交渉については,会話を録音しており,その録音と反訳書を裁判所に証拠として提出してあった。ところが,この証拠が「裏目」に出た。結果的に,録音テープの会話状況を試聴した第1審裁判官をして,「BとAが共に座ったままの状態で,Bは声を荒げたり高飛車に出ているわけではなく,ゆっくりと間合いを取りながら淡々と話している様子がうかがえる」(判決書)といった,心証を与えてしまっていたのだ。

しかしながら,いくら「ゆっくりと間合いを取りながら淡々と」話していたにしても,その内容は,著しくエゲツナイものであるし,従業員の「人間としての尊厳」を無視した,陰湿なものである。「圧倒的に優位」にあるBからみれば,劣位の新米Aに対しては,激高して声を荒げる必要など全くなく,陰湿にチクチクいじめればいいのであるから,録音テープの「雰囲気」だけから上記の判断をするのは早計であって,裁判官としては,会話の状況から萎縮しきったAの心理状況を読み取るべきであろう。

かくて,当方は,直ちに控訴した。が,名古屋高裁に係属した部は,私との「相性」が最悪の部であった。私の起案した控訴理由書の内容は,第1審判決をボロカスに批判するものであったが,係属部の部長は,第1審裁判官の裁量を広範に認める傾向があり,主任裁判官も,「波風を立てる」判決を嫌う傾向がミエミエだったので,私は,配属部の決定を知るや,暗澹(あんたん)たる気分になった。そこで,私は,Aとその両親に,予防線の張ることにし,Aに電話をかけ,「ちょっとヤバいです。原審が維持される公算が高いです。」と説明した。

ところが,神は,私とAを見捨ててはいなかった。裁判にも,転機がおとずれたのだ。そう,部長の転勤を報ずる新聞を目にしたのだ。そして,後任の部長は,最高裁調査官の経歴もある期待のもてる裁判官であった。私は,すかさず,Aに連絡した。「ちょっと,風向きが変わるかもしれませんよ。」と。

そして,その後,案の定,主任裁判官の態度が一変した。当事者双方の代理人らが立ち会うラウンドテーブルで,いきなり,「(控訴審)裁判所としては,このままでは,原判決の判断を維持することは難しい,と考えています。」と宣言し,各当事者の代理人を片方ずつラウンドテーブルに呼び出し,強引に和解の説得を始めた。
当然のことながら,当方は,和解を固辞した。裁判所の心証が,見え透いていたからだ。もちろん,私は,逆転勝訴を確信していた。

それでも,主任裁判官は,懇請してきた。

「もし判決になって,『労働判例』(雑誌)に本件の判決が掲載されたら, 相手方の実名が出てしまいますよ。かわいそうじゃないですか。 先生,名古屋の公益財団法人をイジメちゃあ,ダメですよ。」

「何いってるんですか!! イジメられたのは,私の依頼者の方ですよ! 一罰百戒,自業自得ではないですか。」

「じゃあ,せめて争点を,退職勧奨の問題にしぼってください。 パワハラ一般を争点にすると問題が広がりすぎますから。 お願いしますよ。」と。

このように,切々と主任裁判官から泣きつかれると,当方としても,争点をしぼることを受け容れざるを得ない。しかしながら,この場合は,「訴訟上の信義則」上,裁判官との間では逆転勝訴判決が,暗黙の了解事項だ。

かくて,平成30年9月13日,想定どおりの逆転勝訴判決を受けた,といいたいところだが,認容額は○○万円と低かった。それでも,BCらの言動が「社会的相当性を逸脱するもの」であり,総じて,「一連の」パワハラ的言動は,Aを「職場から排除するもの」であり,「社会的相当性を逸脱する違法な退職勧奨である」と断定された。
やれやれ,職責は果たせた。裁判所も,一応は「訴訟上の信義則」を守ってくれた。兄弁の“眞ちゃん”には,「ちょっと時間はかかりましたが,何とかイジメ返すことができました。」と報告した。

 

(余録)

近時は,パワハラ問題が深刻化しているようだ。

(裁判所もしかり!)

これが,今年最後のブログです。

では,皆様,よいお年を。