北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

現実の医療は教科書どおりにはいかない? ― わが家の「精索捻転」事件から

一昨日(4月17日)午後7時,事務所で残業していると・・・・,
突如,妻からメールがあり,
「息子が,発熱血尿に加え,睾丸痛腰痛を訴えて,今,A病院(名古屋市内の総合病院)に来ている。最悪の場合,入院になるかも・・・」とのこと。

睾丸痛を訴えたのが午後6時前後であったため,その時間帯でも診療を行っている,市内の泌尿器科医院を探したところ,K医院があったので,ありがたかった。K医院では,「『なんとかねんてん』の疑いがあり。再検査の必要あり。」とのA病院宛の紹介状を書いてくれた,との由。

何~い?!,「精索捻転(睾丸捻転)」(男児の睾丸が捻れて血流が途絶する病気で,8時間ないし12時間前後に捻転を解除しないと,睾丸が壊死してしまう可能性がある。)が疑われている,ってか?!!,そりゃ,非常にヤバいじゃん!!,

「精索捻転なら,緊急処置が必要だぜ。」と返信メールを送る。

後で,妻から聞いた話では,K医院で詳細な問診がなされ,現病歴・症状の推移が詳細に紹介状に書いてあったにもかかわらず,A病院では,改めて看護師から症状の推移が詳細に聞き直されて,紹介状があっても,2時間待ちで,出てきた女医さんが,またまた現状歴・症状の推移を聞き直すといったことが繰り返された模様。

仕事の合間に,妻に対し,
「緊急疾患だってこと,医師はわかってくれているのか?」
というメールを送信したのが,22:51と記録されている。

この時間帯,救急外来で,女医さんとなると,研修医に決まっているし,しかも,泌尿器科が専門ではなかろうし,「大学卒業したての,若い女医さんが」息子の「陰嚢(キャンタマブクロ)」を的確に「触診」できるであろうか???という疑問と不安が頭をよぎる。

その後の情報で,どうやら,運良く当直医泌尿器科の男性医師がみえたようで,
「お兄ちゃん先生」が診察に当たってくれている,との情報が入り(さすが,A病院!),ホッと一息。

K医院(泌尿器科)で,陰嚢の大きさ「左右差」(※精索捻転の所見)というから,
間違いなく精索捻転が疑われる。
お兄ちゃん先生に,手技的に睾丸を整復してもらいなさい。通常,精索捻転の場合,睾丸は内側に捻転するから,外側に睾丸を捻って捻転を解除するの常識だ。それで捻転が解除されない場合は,緊急で試験切開してもらって,精巣固定術が必要になる。それにカラードップラーをとってもらいなさい。A病院ならできるはずだ。」などと,医療裁判で得た知識をもとに,妻にメールで「指令」(?)を出す私。

これに対し,妻からの「触診と,血液検査尿検査の結果待ち(をしている)。」との返信メールを受信したのが「23:29」。

「A病院ともあろう病院が,何をやってんのかな?」
と思い,A病院・救急外来へタクシーで直行

0時前に,到着すると,妻と息子が,待合場所で,診察室への呼び出しを待っていた。
陰部は痛いが,頭痛(疼痛)と腰痛は,収まってきた模様
K先生からもらった薬が効いたのか?と思いきや,K先生は,薬物投与は,症状を修飾してしまい,後医(A病院)の的確な診断を妨げるおそれがあるとの理由で,抗生剤も出してくれなかった模様。

しばらくすると,診察室に呼びだされ,
担当医師A先生の病状説明に立ち会う。
精索捻転と,精巣上体炎の双方が疑われるので,鑑別診断を進めています。尿の色調が悪かったとのことと,症状が急激でないし,オンセットで発症した,という感じではないので,精巣上体炎の方が可能性が高いと思ってますが・・・」
「でも,『左右差』があったんでしょう?!」
「紹介状で,K先生(前医)は,そのように書かれているので,そうなんでしょうが・・・・。もう一度,経過を診察させてください。」と言って,
息子を診察室に残し,両親は,待合室へ。

しばらくすると,再び,診察室に呼び出されて,説明を受けるが,
やはり,精巣上体炎の可能性の方が高いとのこと。
で,目の前に置いてあった医療機器を指さし,
「先生,これカラードブラーでしょう? この検査をすれば,陰部の血流の有無で,精索捻転と精巣上体炎との鑑別は,簡単につくのではないでしょうか?」と聞くと,
A先生は,「いやー,必ずしもそうではないのですよ。」と言われる。
「捻転って,睾丸を外側に捻るだけで解除できないものですか?」
「いやー,手技的には怖くて解除できませんよ。睾丸は通常内側に捻転しますが,稀に外側に捻転している例がありますから,その場合,捻転解除したつもりが,かえって捻転を強めてしまうこともありえるからです。」
そして,「ちょっと,『上』と相談しますので,もうしばらくお待ちください。」
といって,再び待合室へ。これで,完全に12時は回った。

しばらくすると,再び,診察室に呼び出され,
「では,念のため,造影CTを撮らせていただきます。」とA先生。
「そうきたか」と思ったが,この時間帯に造影CTを撮影していただけるとは,
大変ありがたかった。

ベット室に運ばれ,点滴で造影剤を注入されている間,
息子がボソッと言った。
「さっき,診察室で,先生に聞かれたよ。
『お父さん,って医療関係者ですか』って。」
「で,何て答えたんだよ。」
「『医療過誤を専門に扱っている弁護士です。』と」
「なんだ,言っちゃたのか。」

結局,造影CT検査の結果,陰嚢内の血流が豊富にあることが確認できたので,
精巣上体炎だと判明した。精巣上体炎でも,睾丸に左右差がでることもあるらしい。
でも,確定ではないので,明日,といっても同日の朝,もう一度,診察するので,受診に来院してくれという。

それから,会計の呼び出しがあるまで,約1時間半の待ち。

会計を済ませ,処方薬を手渡されたときには,息子の症状は殆ど治まっていた。なんじゃいな!と思った。まあちと,早く応急的に薬を出してくれんものか?

結局,自宅に帰れたのが,午前3時半だった。

・・・てなわけで,昨日(4月18日)は,
実質的な仕事を開始できたのは,10:30からだった。やれやれ。

 

*追記:A先生の診断の「歯切れの悪さ」のワケ

A先生の説明に今一つしっくり来ないものを感じていたが(捻転方向など視診でわからないか?等),後でK医院を再診したことで,その理由がわかった。実は,前医のK先生(K医院・泌尿器科)がなかなかの名医で,息子の症状から精索捻転をも即座に疑い,既に手技的に整復を終えていたので,それが奏功して,息子がA先生のもとで受診したときは,既に左右差は解消されていたわけだ。にもかかわらず,K先生は慎重を期して,紹介状にはややオーバーに現病歴を書いてあったため,A先生を戸惑わせたのではないか?と思われる(多少オーバーに病歴を書いておかないと,後で紹介先の夜間救急外来の当直医から「仕事を増やしてくれたなぁ!」と恨まれるもんね)。