北口雅章法律事務所

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「男心をくすぐる」円空の蠱惑(こわく)

「母性本能をくすぐる…」という言葉がある。

 これに対し,円空仏には,「男心をくすぐる」仏像,

  換言すると,中性的でなく,女性的=アニマ(anima)的要素を理想的に表現した名作がいくつかある。その中でも,私が,特に傑出して優れていると思う「傑作」は,二つある(あった)。尼僧をモデルとしたと思われる,岐阜県武儀郡上之保村・不動堂「矜羯羅童子(こんがらどうじ)」像と,岐阜県関市下有知(しもうち)・白山神社「善女龍王」像である。

 よりメジャーな方が,上之保村・不動堂の下掲・「矜羯羅童子(こんがらどうじ)」像。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「円空のカメラマン」として知られる後藤英夫氏が,上掲・矜羯羅童子について,「私を円空狂にした尼さんです。この尼僧に出会ったお陰で,私の人生は大きく変わりました。最大の恩人です。今でも惚れに惚れています。しかしこれは尼僧ではなく,矜羯羅童子という説も出ていますが,私が生きているうちはどうか尼僧として,そっとしておいていただきたい。気持ち,わかるでしょう。」(後藤英夫ほか「円空巡礼」107頁)と述べていることは有名で話であるが,この「尼さん」は,昔,私が「円空展」で鑑賞した円空仏のなかでも,最も印象に残る仏像であった(なお,後藤氏の上記「思い」は,同氏のエッセイ『円空仏撮影記』[「江戸のキュービスト 円空」所収]に詳しい。)。

 そして,上掲・矜羯羅童子に比べ相対的にマイナーではあるが,それに優るとも劣らず,母性的魅惑をもつ仏像が,下有知(しもうち)・白山神社の下掲「善女龍王」である。

 本ブログの標題に「蠱惑(こわく)」という特殊用語に「?」な感じを受けた円空フアンであれば,前掲「矜羯羅童子」と上掲「善女龍王」の悲劇的な共通項に気付かれたであろう。そう,実は,上掲2躯は,非常に残念なことに,いずれも盗まれてしまったのである(小島梯次著「円空仏入門」[まつお出版]106頁によれば,「矜羯羅童子」を含む不動堂の諸像が盗難に遭ったのは平成17年のことで,平成26年現在,未だ発見されるに至っていないという。)。したがって,今となっては,現物を直に鑑賞することができない。つまり,円空仏の気品ふれる女性の理想像を刻した傑作は,「魅惑」であると同時に,一部の不届き者にとっては,「蠱惑」(人の心を乱しまどわすこと)となるらしい。
 もとより前掲各仏像の盗人は,いずれも男性であると思われる。私のプロファイリング(異常犯罪の犯人像の分析)では,その各犯人は,現実的な異性よりも,自己愛的な偶像に愛着を感じるといった回避性愛着障害をもつ精神障害者に違いない(岡田尊司「回避性愛着障害 絆が稀薄な人たち」光文社新書・参照)。

 気分直しに,現在も現存している,女性的=アニマ(anima)的要素を理想的に表現した傑作を2躯ほど紹介しておこう。
 
 一つは,美濃加茂市観音洞円空窟馬頭観音像である。ちょっぴり,堀内照美・部総括判事(名古屋家裁)に似てませんか?

 そして,もう一つ,個人的には最も「魅惑」を感ずる円空仏の一つが,最近になって,愛知県安西市の個人宅で発見されたという。これぞ,下掲・阿弥陀如来像である(円空学会理事長・長谷川公茂著「円空 微笑みの謎」126頁参照)。

<写真・出典>
本文引用の他,「円空 慈悲と魂の芸術」展・図録(1994 朝日新聞社)
後藤英夫・長谷川公茂・三山進「円空巡礼」(新潮社)
円空研究7「特集〈編年円空仏〉」円空学会編(人間の科学社)
後藤昭夫監修「せきの円空」(円空フェア’88実行委員会発行)

 

(注)「円空」,「円空仏」について,ご存知のない方へ

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私が,愛知県弁護士会の会報に投稿した入門記事(エッセイ)を掲載してありますので,
これと合わせて本ブログお読みいただけますと幸いです。