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「人類は皆兄弟」とは,誰の言葉か?

戦前の大物右翼にして日本船舶振興会・会長の,笹川良一が,テレビCMで,「世界は一家、人類は皆兄弟」と喧伝したために,私にとって,この言葉は,どうも偽善的なイメージがつきまとって,どうもシックリこない。

が,トルストイによると,キリストの教義にも,「人類は皆兄弟」という思想があるらしい。すなわち,トルストイ曰く「キリストの教えの一番主要なところは,彼が万人を兄弟と認めた点である。彼はいかなる人の中にも自分の兄弟を認めた。姉妹を認めた。したがって,彼は万人を,よしんば相手がだれであろうとも,どのような人物であろうとも,平等無差別に愛しいつくしんだ。」と(原久一郎訳「人生の道(上巻)」岩波文庫77頁)。

 

が,実は,

最初に「人類は皆兄弟」と唱えたのは,どうやら孔子らしい。
弘法大師・空海「綜芸種智院の式」において,「三界は吾が子なりといふは大覚の師吼,四海は兄弟なりといふは将聖の美談なり」(この世の衆生は,皆,わが子であるというのは,お釈迦様の言葉であり,世界中[四海]は,皆兄弟であるとは聖人孔子の名言である。)と述べられているからだ(「弘法大師・空海全集第六巻」筑摩書房650頁)。

 

追記

ちなみに,「四海は兄弟なり」という言葉は,論語・「顔淵第十二」に出てくるが,弟子の「子夏」の言葉ということになっている

齋藤孝訳『論語』ちくま文庫249頁「四海の内,皆な兄弟也」「四海之内,皆兄弟也」