北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

升田純著「実戦 民事訴訟の実務《第6版》」を読む

先日、東京出張の折りに、東京駅前の書店に寄ったら、升田純先生(元東京高裁判事、前職・中央大学法科大学院教授)の御著「実戦 民事訴訟の実務《第6版》」が目にとまった。実は、私は “ 隠れ升田ファン ” で、判例時報に掲載されている升田先生の連載ものなどは、熱心に読むようにしている。

 

手に取って見ると、[実戦訓29]裁判官は強気に弱く、弱気に強し、[実戦訓30]裁判官に阿(おもね)って一利なし、[実戦訓31]裁判官を怒らせて一利なし、[実戦訓32]裁判官は和解の臭いに敏感、[実戦訓32]裁判官は、敗訴の臭いに敏感、…等等、面白そうで、役立ちそうな「実戦訓」が115項目も掲載されている。
「いつの間に、升田先生、こんな本を《第6版》になるまで、書き続けてこられたのか???」と思って、衝動買いしてしまった。だが、新幹線の中で「はしがき」を読むと、実は、この本の初版本を読んでいたことに気づいた。題名も、分量も大きさも様変わりしていたので、気づかなかった。

もう20年以上も昔かあ…

 

升田先生の上掲・著書の原著は、「月報司法書士」に連載されていた論稿が基になっているので、法曹実務初心者、本人訴訟を目論む一般人、司法書士等のパラリーガル向けではあるが、私のようにそれなりの実務経験を積んできた法曹にとっても、面白く読める。

とはいえ、上記著書が面白く読める理由は、やはり、最近の裁判官に対する嫌み・揶揄・皮肉を含蓄する軽妙な筆致にあり、痛く共感・共鳴できる箇所が少なくないからであろう。例えば、・・・

1.「…訴訟が提起され、…弁護士等や依頼者本人が感情や反感の赴くまま、事件や訴訟の内容との関連性がないとか、関連性が乏しい意見を述べ、主張を行ったり、関連性はあるものの、過激、不相当な意見を述べ、主張を行うような事態が発生することがあり(…)、本来の事件に派生し、名誉・信用毀損、侮辱、プライバシーの侵害、営業妨害等の新たな紛争、事件が発生することがある。
 さらに、これらに加えて、訴訟等の手続において裁判官の判断、結論が誤ったりしたような場合には、新たな紛争、事件が発生し、これに対応せざるを得なくなることがある。…」(68-69頁)。

2.「…法廷に出廷する前は、法律実務家として当日予想される言動、出来事を想定し、準備を行うが、実際には予想外の言動、出来事に遭遇することは少なくない。特に品位を欠いた相手方の当事者、その代理人の言動、品位・品格を疑わせる裁判官の言動に直面する事態も珍しいものではない。…」(255頁)

3.「裁判官は、法服によって公正、公平な判断をすることができるとの姿を外形的に示しているとされているが、法服がなければ、その能力、知識、経験等のほか、性格、気質、ものの考え方は様々ということになる(法服によってこれを隠していることになろう)。判決の内容は、所詮、裁判官次第であるといわざるを得ないところでもある。」(258頁)

4.「…裁判官から根拠がないにもかかわらず、主張の取下げを勧告されたり、根拠が示されることなく、あるいは合理的ではない内容の和解を勧告されたり、粗野で乱暴な発言をされたりする事例が見受けられることも事実である。このような事態は、最近様々な場で問題になっている法的な概念を使用すれば、パワハラにあたるということもできよう。裁判官のこのような言動にどのように対応するかは、対応の仕方によっては敗訴判決の可能性を高めることにもなりかねないため、悩ましいところであるが、…裁判官の対応にストレスが蓄積するとしても《裁判官のパワハラは受け流せ》の対応が賢明である。」(276-277頁)。

5.「…社会常識、取引上の常識、経験則、論理則についても、裁判官が十分な知識を有していないことが多々あるから、……、社会常識、取引上の常識、経験則、論理則に関する主張も的確に記載しておくことが重要である。」(417頁)。

確かに。