北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

西宮紘著「釈伝・空海(上・下)」を読了したが、…

 先日、西宮紘著「釈伝・空海(上・下)」(計854頁)を読了したものの、一回読んだだけで、頭に入る代物ではない。
 大河ドラマを読むような面白さがある反面、「弘法大師・空海全集」(全八巻)のみならず、「日本書記」、「続日本紀」等の史書、各種教典の注釈書等を渉猟し十分に咀嚼された上で、可能な範囲で史実に忠実に、弘法大師・空海の生涯・思想(主著の紹介)・人間模様・歴史的背景が物語形式で具体的に再現・描写されているので(ただし、フィクションも含まれている。)、大変参考になる。「将来の自分に対し」再読の便宜を図るべく、重要な箇所等に、線を引いたり、マークしてあるので、2回目に読むときには(目下、再読中)、1回目よりは、メリハリをつけて早く読めそうのものではあるが、例えば、空海の主著「十住心論」の紹介だけで68頁を裂いているので、十分に味読し理解・咀嚼するには、かなりのエネルギーを消耗する。
 著者の西宮さんは、京都大学理学部物理学科を卒業された後、哲学、宇宙論、分子生物学、脳生理学等を研究された碩学とのことであるが、本著書を書き上げた直後、本著作の出版を待たずに死去されてしまったらしい。
 ところで、西宮さんは、弘法大師・空海の思想の真意を正確に理解されているといえるであろうか。もちろん、100%の理解がナンセンスであることは、空海独自の仏教用語(梵字を含む)自体が諸種の解釈を伴うことに加え、西宮さんも「(空海は)…ここ(第九住心)で『五相成身の真言』を説き、この五相成身の加持によって大日如来と一体になるという空海独自の思想を継いで提示した。ただ、ここでは『五相成身』という後を出しただけで、その具体を語らない。五相成身観という観法は、空海が己の修業の中から完成した独自の修業法であったのだ。…この観法は直接の面授によって教示すべきものだったのである。」と書かれているとおり「密教」の本質に照らし自明であろう。
 もっとも、西宮さんは、独自の思索を積み重ねるうちに、あたかも真言密教の行者が、三密加持によって大日如来・曼荼羅と一体化するように、弘法大師・空海の魂との一体化に成功したらしい。本著書の「編集部追記」によると、「二一世紀を前に、科学の限界を悟った(西村)氏は、…(本書)を書き上げる1年前(2017年)には、“空海がのり移ってきた”と真顔で話されるのには閉口したが、…」と書かれるほどの精神状態に至っていたとのことだから。