北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

福田淳一・前財務次官の「セクハラ」判定に異議あり!!

先般,財務省が,福田・前次官において,テレビ朝日の女性記者に対する
「セクハラ」があったと判定し,同・前次官を減給処分とした。

しかしながら,先般の「セクハラ」判定は,法律論的にはメチャクチャだと思う。
世論の趨勢からすれば,当該判定に異論を唱えると,少なくとも,世間の圧倒的多数の女性を敵に回すことになるかもしれない。
しかしながら,「法律家の良心」にかけて,
「誤っているものは,誤っている!」
と,はっきり宣言しておきたい。

理由は,次に述べる。

[理由その1]

そもそも実体法的に,「セクハラ(処分理由)があった」といえるのか?
疑問である。

「セクハラ」(セクシャルハラスメント)を含め,「〇〇ハラ」(「パワハラ」=パワーハラスメント,「モラハラ」=モラルハラスメント等)と命名されたハラスメント行為は,一定の社会的集団又は組織内部での事象・人的交渉であることが大前提である。そして,そのような社会的集団・組織内部であるが故に生起する事象において,①非対称的な(優位・劣位の)力関係(そのアンバランスとその乱用),②明確な「被害」の存在,及び③反復性・継続性といった特徴・特質をもつところに「〇〇ハラ」現象の問題性・害悪性根拠がある。

ところが,本件の場合,

第1に,福田・前事務次官の所属は「財務省」であるのに対し,「セクハラ被害」を主張する女性記者の所属は「テレビ朝日」であって,同一の社会集団・組織に所属するとはいえない。当該女性記者において,福田・前事務次官との個別交渉が「嫌だった」というなら,「福田くんと会わなければ,いいではないか!!?」というだけの話である。つまり,当該女性記者には「交渉を拒む自由」が存在したのである。もし仮にそのような「拒む自由」が当該女性記者になかったというのであれば,それは,当該女性記者から「拒む自由」を事実上奪い,「性的発言による精神的苦痛」の受忍を命じた,その上司による「テレビ朝日」という組織内部での「パワハラ」の問題であって,やはり「財務省内での」「セクハラ」の問題ではない。ここには,欺瞞的な「問題のスリカエ」がある。福田・前事務次官にとってみれば,「下品・卑猥なトーク」をすれば,即座に「セクハラ」だと非難され,即座に「一発退場」(レッドカード)を余儀なくされ,懲戒処分をうけるくらいなら,そんな女性記者の取材に応ずる義務など全くなかったはずだ。「下品・卑猥なトーク」についても「黙示の承諾」があると誤信しているからこそ,「1対1の面会」の場を設定したのである。
 換言すれば,両者の相互交渉は,両者の「合意」のもとに,一過性に形成されたものであって,双方に,「交渉を拒む自由」がある以上,「①非対称的な(優位・劣位の)力関係」といった本質・問題などないし,また,同一集団・同一組織に所属するがゆえの「③反復性・継続性」の問題も認められない。

さらには,第2に,仮に上記前提を外したと仮定しても,録音テープの内容が,殆ど検証されていない。テレビ朝日の記者会見によれば,「女性記者がセクハラ被害を受けたのは1年半ほど前から数回」だというのであるから,当該女性記者は,ICレコーダーによって,福田・前事務次官との取材交渉を録音していたはずであり,相当時間数の録音テープが存在するはずである。そうであれば,中立な第三者が当該録音テープの内容を精査して,はたして当該女性記者が,「一回でも」いいから「福田次官!,そのような卑猥な発言は,『不快』ですし,『セクハラ』に当たりますから,私の前では止めてください。」と抗議した発言が録取・収録されていたのか??をきちんと検証すべきである。真の被害者であれば,当然に,被害を訴えるはずだ。何せ『週刊新潮』にネタをバラすような『強者(つわもの)』記者なんだから。もし仮に,当該女性記者が,そのような抗議的発言(「福田さん! それは『セクハラ』です!!」)をしていれば,福田・前事務次官においては,「酔い」など一挙に醒め,それと同時に「百年の恋」(スケベ心)も醒めよう。換言すれば,当該女性記者においては,一言,「福田さん! それは『セクハラ』です!!」といった発言をすれば,相手(福田・当時事務次官)の気力を萎(な)えさせること「請け合い」の強力・絶大な「自衛手段」があったわけで(何が「自衛目的の録音」だ?っつーの!! バカか。),そような効果覿面(てきめん)の自衛手段を講ずることなく,性的発言を「隠忍(いんにん)」する理由などまったくなかったのである。
 そのような会話の実態・実情・内容をろくに確認もせず,また,福田くん本人が否認しているにもかかわらず,『セクハラ』があったなどと「セクハラ被害」(私は,そもそも「セクハラ」の前提情況を欠く,という理解であるが。)があったなどと一方的に認定するのは,いかがなものか。

 

[理由その2]

手続的にも,メチャクチャである。

第1に,福田・前事務次官に対し,『有罪の推定』をしていること,『悪魔の証明』を強いるに等しい認定方式をとっていることは,既に,私のブログで批判した。

 弊ブログ 「『福田氏から十分な反証反論はない』から事実認定だと?」
     https://www.kitaguchilaw.jp/blog/?p=2540

第2に,テレビ朝日の方も,無責任であり,卑怯である。
財務省を批判するなら,その前提として,自社の内部手続で,当該女性記者から,全ての『録音テープ』を徴求・精査し,当該女性記者の『聴聞』を行って,日時・場所を特定したうえで,いかなる態様・発言内容をもって「セクハラ」といえるのかを明確にしたうえで,そのような「性的発言被害」を「女性記者の上司」の方で強要した事実(パワハラ)がなかったかをきちんと調査したうえで,抗議すべきであるし(もともと『くノ一取材』を強要していたテレビ朝日に,そんな抗議する資格などないと思われるが),財務省においても,テレビ朝日に対し,そのような内部調査をするよう申し入れるべきではなかったか。テレビ朝日に対し正式な社内調査を依頼せず,社内調査で確認された前提事実の情報開示も要求せずして,そのような手続を一切「省略・割愛・捨象」して,財務省が,かつての上司・しかもトップの懲戒処分を決定してしまう,というのはメチャクチャではないか。

第3に,矢野康治・官房長においては,国会答弁で,「被害者」である女性記者に向かって,「名乗り出るのが,そんなに苦痛なのか」と言い放って,財務省御用達の法律事務所(顧問弁護士)への被害届を呼びかけたのではなかったか。だったら,財務省内の懲戒手続は,法律専門家(弁護士)の関与のもとに行われたことになるが,当該顧問弁護士は,一体いかなる根拠資料のもとに,「セクハラ」認定をした,というのか??? まさか「『週刊新潮』の記事が懲戒の根拠資料です。」などといった「恥ずかしいこと」は,口が裂けても言えまいに。要するに,国家行政組織の中核を担う官僚への懲戒処分に,「実質的に」法律家の専門知識と経験が活かされていない,ということである。

 

以上のごとく,日本国家の中枢を担う「国家の要(かなめ)」=財務省で,
メチャクチャな懲戒処分が,恥ずかしげもなく,行われてしまった。

このことは,何を意味するか?

そう,矢野康治・官房長は(またの名「菅義偉・内閣官房長官の「腰巾着(こしぎんちゃく)」)

「財務省・事務次官の器(うつわ)」ではない

ということだ。